特大家族 第三章 マケナイデ、ゼッタイカッテ  その4 (小説)

開会三十分前。覇斗と楓は控え室を出て大会会場である大体育室に入った。


 スタンドの応援席の一角に、宮城家の人々の姿が見える。結構な人数だった。


 いつもの家族の他に覇斗が見たこともない人物も混じっている。楓に尋ねると 「東馬伯父さん」 だという。

 毎年、お盆休みを利用して帰省しているのだそうだ。今日は、東京から直接この大会会場にやってきた模様である。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/28 23:31 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第三章 マケナイデ、ゼッタイカッテ  その3 (小説)

「おっ、高柳ぃ、ここにおったんかぁ」

 
 唐突にドアがガララララッと開け放たれた。乱暴な声とともに現れたのは山のような大男である。


 虎縞の覆面。鍛え上げられた筋肉の塊のような身体。筆文字で 「巨魂!」 と書かれた白いTシャツ。黒いレスラーパンツに赤いリングシューズ。

 誰が見ても覆面レスラーそのものだった。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/27 23:48 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第三章 マケナイデ、ゼッタイカッテ  その2 (小説)

八月十日(日)

 
 遂に運命の日が訪れた。

 
 日の出とともに気温が三十度を越える猛暑。アスファルトに陽炎が立つ国道。雲一つない青空とそびえ立つ濃い緑の山々。

 そこかしこの休耕田に大輪のヒマワリが咲き誇り、アブラゼミのけたたましい鳴き声が雑木林に響き渡る。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/26 23:44 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第三章 マケナイデ、ゼッタイカッテ  その1 (小説)

八月九日(土) 

 
 月日は瞬く間に流れ、指相撲大会の前夜となった。宮城楓は自室の照明を灯したままベッドで仰向けになり、白い天井をただ見上げている。


 思うは明日のこと。そして高柳覇斗のこと。

 楓と覇斗の仲はこの二ヶ月近く、全く進展していない。楓が覇斗に恋心を抱く以前の友好的な師弟関係がそのまま持続している。

 とはいえ、楓が冷めてしまったわけでも諦めたわけでもない。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/25 23:26 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その18 (小説)

ふと、覇斗の脳裏に中学時代の苦々しい思いが蘇った。


 かつてクラスメイトの少女が彼への告白寸前に漂わせていた艶かしい雰囲気を、楓も唐突に身に纏い出したからである。


 顔を見ると、はにかんでいるようでもあり当惑しているようでもあり、熱に浮かされてボーッとなっているような感じでもあった。

 そして、その変化は仕草にも及んでいる。背筋を僅かに丸め、両手の指を胸の前で絡ませたりほどいたりを繰り返して、明らかに落ち着かない様子を見せていた。













投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/23 18:16 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その17 (小説)

「元々は 『諦めのいい自分』 を 『いざという時絶対に諦めない自分』 に塗り替えることを目指していたんだ。本来諦めるべきでないことでも、すんなりと諦めてしまえる── そんな自分に恐怖を抱いていたから。なのに、マイナーな競技を極めることばかり考えているうちに、最初の目的を見失ってしまってた」

「この景色を見て原点を思い出したのね」

「うん。本当の原点に立ち返ることができた」











投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/17 15:57 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その16 (小説)

六月十五日(土)

 
 この日、楓は普段よりずっと早く目を覚ました。午前五時。既に日は昇り始めている。


 外はまだ静かで、遠くでキジバトの鳴き声がする程度だ。窓から差し込む柔らかな日差しを浴びて、楓は大きく背伸びをした。

「ああ、気持ちいい」

 思わずそんな声が漏れてしまう。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/16 23:39 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その15 (小説)

六月十三日(木)

 
 たった今、日付が変わった。


 美晴子はベッドの中でなかなか寝つけないでいる。彼女は姉にハッパを掛けられたと感じていた。


 千春子にとって自分はかなりじれったい存在なんだろうな、と思う。傷つくことを恐れ、一歩前になかなか踏み出せない。取り立てて他人に誇るべきものを持たない彼女には、光城高校の女子の気持ちがよくわかる。

 美点の塊である覇斗に対して、どうしても引け目を感じてしまうのだ。

 自分と覇斗が肩を並べて歩く情景がまるで想像できない。このまま覇斗の一ファンとして、見守り応援していく方が自分には相応しいのではないかと思えてくる。












投稿者:クロノイチ






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[ 2016/08/08 23:58 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その14 (小説)

同じ頃、美晴子の部屋。パジャマに着替え中だった美晴子があっけに取られて硬直していた。


 千春子が、不意にノックもなく転がるように上がり込んできたからである。


「ええと、千春子、税務署の予告なしのガサ入れみたいにいきなり何かな?」

 いそいそと七分丈のパンツをずり上げながら、美晴子が訊ねる。

「聞いて聞いて。一大事やよ」

「何が一大事なのよ」

「さっき、いきなりピンときたんやちゃ」

「だから、何?」












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/08/05 18:31 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

特大家族 第二章 リセットスイッチ その13 (小説)

 旅館時代のカラオケラウンジを改装した地下一階の音楽室には、かつてのバーラウンジにあった国産のグランドピアノが半ばオブジェとして設置されていた。


 定期的な調律こそしっかり行われているものの、元々それほど高価な品ではなく、音色も響きもどこか浅い感じがする代物である。


 少なくとも覇斗が以前に軽い気持ちで弾いてみた時にはそんな印象だった。しかし今、そのピアノは、本来のポテンシャルを遥かに上回る重厚な音を響かせている。












投稿者:クロノイチ





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[ 2016/07/21 16:29 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)