第五十九幕 イースタン・プロミス

荘厳な社会劇   映画 『イースタン・プロミス』

『イースタン・プロミス』 ポスター


 なじみの客が、気持ちよく髭をあたってもらってるところに、ちょっと約束の時間に遅れて、甥っ子がやってきます。

 床屋の主人は、甥の気の弱さをなじりながらも、打ち合わせ通り、甥に剃刀を握らすと、甥は、剃刀を客の喉に突き刺し、・・・。

 のっけから、こんな調子で始まる、ヴァイオレンス全開のギャング映画です。

 舞台はロンドン。「イースタン・プロミス」とは、イギリスにおける東欧組織による人身売買契約のことです。

 イギリスの娼婦のうち、8割が、東欧から連れてこられた女性たちといわれます。

 この映画は、そんな実態をえぐります。脚本が、映画「堕天使のパスポート」のスティーヴ・ナイトです。

 クリスマスをひかえたある夜、助けを求めて少女が薬屋に逃げ込みます。

 彼女は妊娠していました。

 病院に担ぎ込まれた少女の腕には、いくつもの注射の跡がありました。

 なんとか、赤ちゃんの命は助かり出産出来ましたが、母胎は持ちませんでした。

 身元不明の母親の手がかりをと、看護士アンナ(ナオミ・ワッツ)は、少女が持っていた日記をこっそり病院から持ち出します。

 日記に書かれていた文字はロシア語でした。

 ロシア人の父を持つハーフのアンナですが、ロシア語は読めません。

 母ヘレン(シニード・キューザック)との二人暮らしの家に出入りしている、元KGBだという伯父ステパン(イエジー・スコリモフスキー)が、病院から持ち出した少女の日記に目をとめましたが、病院からの日記の持ち出しをなじられたアンナは、すぐさま、伯父から日記を奪い返します。

 日記には、「トランスシベリアン」というロシア・レストランの名刺が挟まれていました。

 アンナは、レストランに出向き、オーナーのセミオン(アーミン・ミューラー=スタール)に、死んだ少女の心当たりを問いますが、いっこうに、手がかりはありません。

 困ったアンナに、セミオンは、日記の翻訳をアンナに申し出ます。

 アンナが独自で少女の身元を調べている間、伯父ステパンが日記を盗み読みしていました。

 少女の名は、タチアナ。

 貧しいロシアでの境遇から、金回りの良さの評判に惹かれロンドンにやってきて娼婦になりました。

 妊娠はレイプ同然の性行為での結果でした。

 ステパンは、タチアナの身元調べには危険が伴うと、深入りせぬようアンナに忠告します。

 ステパンの予感は当たりました。日記のコピーを読んだセミオンはいきなりアンナの病院に押しかけ、タチアナの身寄りの住所を教えるかわりに、日記を手渡すようアンナに迫るのでした。

 取引の場に、アンナは、母ヘレンとステパンを立ち会わせます。

 やって来たのは、セミオンの運転手のニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)でした。

 彼は、アンナが乗る、父のバイクに興味を持ったりして、すでにアンナとは面識がありました。が、元KGBあがりの、ギャングを許せない、いきりたつステパンは、怒りのあまり、ニコライに唾を吐きかけるのでした。

 日記を手に入れ、処分したセミオンは、秘密を知ってるステパンの始末をニコライに命じます。

 職務に忠実なニコライは、ステパンのアパートを探し出し、・・・。


 『堕天使のパスポート』で、クルド移民たちらの直面する、臓器移植売買の実態をあばいた脚本のスティーヴ・ナイトが、東欧からの人身売買「イースタン・プロミス」と、ロシア・マフィアシンジケート「法の泥棒(ヴォリ・ヴ・ザコネ)」を題材にした作品です。

 『堕天使のパスポート』でのオドレイ・トトゥの純粋な正義感が、ナオミ・ワッツのアンナにも投影されています。

 いわくつきのニコライが、アンナの無垢な正義感を真正面から受け止めて映画は終わります。

 激情的で理性の欠いた、セミオンの息子のキリル(ヴァンサン・カッセル)を手玉に取る、ニコライが見せる、頭の回転の鋭さと、肝っ玉の太さと、頂上に駆け上がろうとする野心さは、シェークスピア劇に通じる世界観でもあります。

 アンナ同様、ニコライにも持たせた正義感が、幾分、マフィア像の生々しさを弱めもしていますが、容赦なく殺人を犯していく非道なマフィアのあり方は、見るものを十分に押し黙らせ画面から目を離させません。


 噴出するヴァイオレンスに躊躇して、今年前半の収穫作品を見逃すことのなきよう。

 映画「イースタン・プロミス」をご堪能あれ。



投稿者: 今井 政幸 


『イースタン・プロミス』 公式サイト



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TBありがとうございました

TB返しがうまくいかなくてすみません。
この映画は、とってもお気に入りの一本です。
『堕天使のパスポート』は知らなかったのですが、
こちらの記事を読んで興味がわいたので、機会があればぜひ見てみたいと思います。
[ 2008/08/11 20:33 ] [ 編集 ]

『堕天使のパスポート』は

気に入ってもらえる作品だと思いますです。
[ 2008/08/11 23:19 ] [ 編集 ]

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