夜中、トイレに起きた私は、家の敷地内にある工場の明かりがついているのが、気になった。 夫が何かやっているのだろうか?機械の調子でも悪いのだろうか。
私は、工場の重い扉を開けた。予想通り、夫がゴソゴソしていた。
「待子?」
振り向いた夫の口からは、血が滴っていた!
「ぎゃああああああ」
『鉄男・やさいRE‐MIX・女教師バージョン』 あぁ暑い。もう期末テストも終わって、授業をするのもあと5日かそこらだ。
ホントに子供っていつもうるさい。大抵くだらない話題で盛り上がってる。
「えーメイデンちゃん〜?あんなブスより、まだあのデブきょんのがイケてるって〜」
「メイデンちゃんの眼鏡に萌え〜」
「なぁなぁなぁ、メイデンちゃんて眼鏡取ったらマシだと思う?」
「知らねーあんなブス。ぎゃはははは」
好きにしてくれ。私はお前達の、思春期特有の臭いに時々吐き気がする。
町工場を親から継いだ、幼なじみの夫と結婚して、10年経つ。子供はいない。
セックスもしない訳じゃないけど、なかなか出来ないのだ。でもそれでいい。
職場に行けばうるさい中学生共にバカにされるけど、もう慣れた。無口な夫と、淡々と生活をしていければ良い。
割りと家から近い中学校に配属されたため、夫が鉄工所を経営していて、結婚しても子供がいないことは、いつの間にかみんな知っていた。
ひとりの生徒がある日こう言った。
「ねぇ、待子ちゃんてアイアン・メイデン」
「はぁー、何だよそれ」
「俺メタル好きでさー。
アイアン・メイデン ってバンド、超好きなんだよ。で、『鉄の処女』って意味なんだってさ。待子ちゃんて、絶対エッチしないっぽいよなー」
「待子ちゃんブスすぎて、もう旦那に相手にされないんじゃないの」
「だーかーらー。待子ちゃんちは鉄工所〜、待子ちゃんてば処女のまま〜。イェーイ、アイアン・メイデーン」
あまりに下らなくて、倒れそうになった。
さて、今日の夕食は、夫の大好きな「スチールウール・コロッケ」だ。
これを出すと、夫は何も言わずに、にそ〜と笑った。
あの夜、私は夫から告白された。愛の告白すら聞いた覚えが無い私は、内容もそうだが、夫の真剣さに驚いた。
口から血を垂らしながら、切々と夫は訴えた。
「待子…俺は…鉄が欲しい」
「え、え?」
「いや、もう鉄を食べないと駄目なんだ。鉄を食べないと、俺は死ぬ」
あまりの告白に、唖然とした。
「頼む!見られたからには分かってくれ!俺は…鉄を食う」
いや、分からない。分からないけど、夫が死ぬのもちょっと嫌だなぁと思った。
削った後の鋭い鉄を食べて、夫が口を血まみれにしているのも、どうかなぁ、と思った。これでは取引先がビックリしてしまう。
毎日の鉄分は、細かく粉砕した、鉄粉ふりかけ。
男子の体臭がキツイと感じた日に、夫が嬉しそうに鉄粉ふりかけをご飯にかけるのを見て、気持ち悪くなった。
ある夜中。空腹に目覚めた私は、どうしても眠れず、冷蔵庫を開いた。
あれ、無い。
鉄が無い。
鉄、鉄。
そっか、工場に行けばあるじゃない。
工場に行けば、鉄がある?
げぇえぇえ。
自分が鉄を欲していると自覚したら、気持ち悪くなった。吐いた。
「おめでたですよ」
あぁ、そうなんだ。医者の言葉を他人事の様に聞いていた。鉄。子供。鉄。子供。全くどうしたらいいのか分からない。
堕ろそうか。
エコー写真を見て、一瞬怪訝な顔をした医者を見たら何故か笑えてきた。
そうだ。私は鉄を食べて、強くなったのだ。万能感に満ちた私は、年甲斐も無く、スキップをしてウキウキしていた。
そうよ私はアイアン・メイデンなのよ、処女じゃなくて残念ね。だって今なら、あの拷問器具「鉄の処女」だってかじり倒せるんだからね。フンフフ〜ン。
しかし。毎日の様に鉄を食べているせいか、どんどんお腹が重くなってきた。お腹の子と2人分の鉄をとらなければ。
マンホール。側溝の蓋。子供広場の遊具は、塗料を剥がさないといけないから、ちょっとダメね。
そして、ついに陣痛が来た。突き刺さる痛み。早く、早く、もう我慢できな…。
「びぎゃあぁあぁあぁ」
天をもつらぬくような絶叫。
下半身を血だらけにした私が見たのは、人間の皮膚の下に、灰色の鉄がすけて見える子供だった。
夫の工場は、時々近所から「うるさい」と苦情が来ていた。私はお詫びの品を抱えて誤りに行き、夫も納期にどうしても間に合わない時以外は、夜間操業はしなかった。
それが、あの「びぎゃあぁあぁ」は、突然夜中に始まる。鉄が共鳴する。ノイローゼになりそうだ。夫も眠れず、日に日にイライラが募っていくのが分かった。
町内会長が突如怒鳴りこんできた。
「ちょっと、あなたの子供さん何とかしてくれない?」
と言うや否や、灰色の子供の皮膚と、「びぎゃあぁあぁ」の絶叫に、尻尾を巻いて逃げ出した。
そしてある日。
夫が猛烈な勢いで怒り始めた。
「ここに置いてあった鉄、子供が全部食ったぞ!どうするんだよ!仕事出来ねぇじゃねぇか!何つってあちらさんに謝るんだ?え!」
あの無口で大人しい夫が。壊れてゆく。音をたてて。
「びぎゃあぁあぁあ」
夫は工具で子供を殴った。一発、二発。誰が悪いのだろう?夫?子供?子供を堕ろさなかった、私?涙で顔が崩れる。
「もう止めて…」
興奮して、赤くなった顔の夫が目の前にいた。熱された鉄の色ではなく、血の色だった。
真夜中、私はそっと起き出した。ベビーカーにぐったりとした子供を乗せて、空き地へと歩いて行った。ペットボトルの灯油を、ベビーカーの後ろに詰めて。
なるべく燃えるものがない場所で、静かにベビーカーに灯油を注いだ。もうこうするしかない。生きていけない。
ベビーカーが溶ける。鉄の子供が溶ける。ビニールと鉄は、火の勢いに欠け、私の脳内に燃えかすは残り続ける。
私も、静かに自分に灯油を垂らした。何に祈るのか。平凡な夜空を見上げ、一気にマッチをする。
「がはぁっ」
体からぽたぽたと、しずくが落ちた。私はずぶ濡れになっていた。空のバケツを持って、夫も立ち尽くしていた。
「帰ろう。俺がお前をかばう」
「誰も、信じてくれないよ」
「大丈夫だ。お前、アイアン・メイデンって言われてるんだから」
「あははは。笑えないから」
もう私はメイデンには戻れない。もし、すべてを。乗り越えることが出来れば、「鉄の女」になれるんだろうか。
アイアン・メイデン...
投稿者: やさい
[編集長-ひとこと]
今回もナイスなショート・ショートでしたが、少し読んだだけで、コレは田口トモロヲ 主演の映画
『鉄男』 (塚本晋也 監督作品)へのオマージュだと思ったが、やはりそうだったね。
塚本晋也 監督作品 は、絶対に要チェックだ![人気blogランキング] ←クリック投票に協力して下さいませっ!
やさいさん、お返事有難う御座います。
食べる意欲も失せていた雛が私の手の中で生き返り、大空に飛び立った事は、感動的でした。ぴよが手を離れた事に対する寂しさは有りませんでした。ほんの半日ばかりのお付き合いだった事もあるでしょうが、今回感じた事は、私は動物をペットにしたいような愛着心は大人になって無くしたようです。ただ自然の生態系がしっかりしていて、その中で生き続けてくれればいいと思うだけです。
>雑草Zさま
良かったですね!雑草さん始め、ご家族や近所の方、親鳥も心配して、みんなが凄く協力的なのがいいなぁ♪
特に小さい生き物はちょっとしたことで明暗が分かれてしまうと思うので、雑草さんが気付いて助けて、凄いタイミングだったと思うのです。やはりお仕事を休まれた甲斐がありましたね!ワシからも「ありがとう」と言わせていただきます!
2日くらい前あたりから、・・雀じゃない・・セキレイとかヒヨドリ・・の雛鳥が家の屋根やベランダあたりをやっとの事でジャンプしている・・・と家族のものが言ってました。その雛が朝、隣の家との間の排水溝に落ちていました。水はあまりなかったのですが、両側が塀等で高くなっていて飛び立てなく、ぴいぴい泣いていました。親鳥(スズメよりだいぶ大きく、カラスよりちょっと小さいくらいのスマートな形)が心配して塀の上で鳴いていました。
箒とどぶをさらう柄の長い道具で逃げる雛鳥を掬いあげましたが、もう飛ぼうとする気力もありません。
動物好きな自動車整備屋さん(クマも家族同然に飼っていた方)に聞いたところ、黄な粉を水で溶いてやればいい・・と。やっても食べないので・・・暫くしてもう一度聞くと、食べれなくなったらもう駄目・・と。鳴く気力もなくなった雛を水に黄な粉を少し溶いてくちばしの隙間から流し込んで濡れた体を両手で温めたけれど、羽も動かかさなくなり、目も閉じて足がかすかに動く程度。・・・ああ、もう駄目か・・・
・・・と、その時私の右手に生暖かいものが・・・雛がおしっこと糞をしたのです。・・ああ、これで大丈夫かも・・・その後、黄な粉を指から食べるようになり、心配そうに訪れる親に鳴き声で答えられるようになり、先ほどの死にそうな感じは嘘のように回復しました。
かなり元気になったのでやさいさんの『ぴよ』を参考に、週末に世話して親元に帰そうと、母に頼んで午後から出掛けました。
私と入れ違いに小学校から帰って来た一人娘が、親鳥に帰してやろうと木の枝に止まらせて置いたら一向に飛べず、時々黄な粉を食べさせていたそうです。そのうち、見守っていた両親鳥も餌をとって来て、雛に食べさせたそうです。日も下がって来て、野良猫に食べられたら大変だ!と家に入れようとしたとき、ひなは飛んで隣の家の屋根まで必死でたどり着いたそうです。しばらく休んで、親鳥から指導を受け今度は裏の家の屋根に飛び移り、また暫くして、次の家に・・・で、見えなくなったそうです。
++++
・・仕事を休んだ甲斐ありました。
やさいさんの記事に、長尺の私的な話を描いて失礼いたしました。
>雑草Zさま
今回の方にお願いします♪「ぴよ」は携帯のみのワシにとっては、もうスクロール出来ないので…(汗)。
雑草さんが世話をしていらっしゃるのは「ぴよ」なのか、それとも…?!
>山口さま
いつもありがとうございます♪
構想は家事やったりしながら、ホゲ〜と考えて、実際に文章に起こすのは、〆切直前に一気に書きます。
でも携帯なので、実は相当打つのにも時間かかってます(笑)。
*
やさいさん
>お仕事大丈夫でしたか?!
それがですねえ、急遽休んでしまったのですよ。・・
そのわけは、
不朽の名作『ぴよ』(俗称・・・勝手に)
正式名称「エッチなパンツで子育て開始!〜赤ちゃんが降ってきた〜」
と似たような事が今朝(もう昨日ですね)家でも起こったからです。その事を少々書きたいのですが、
ここに書いたらいいですか?
「〜赤ちゃんが降ってきた〜」
に書いたらいいですか?
*
tanokenさん
へ〜、tanokenさんは、HRくらいはOKだけどHMはパスな方かと思ってましたが、私ややさいさん同様HMもOKな方なのですね。
やはりメイデンの素晴らしさは、一聴して彼ら(S.ハリス)と判る格調高いメロディー(アレンジ)でしょう。
高校時代からのファンですか!。・私は社会人になってから、ある日楽器屋さんの店先で哀愁の漂う美しい胸の奥まで染みるメロディーが耳に入ってからです(9枚目3曲目2分44秒〜)。・・・このメイデン節に嵌りました。
メイデン談議したいですね!!
力作ですね。
本編、オマージュ(鉄男、アイアンメイデン)、構成、全てにおいて。
最初のシーンから、惹かれる作品でした。
そうとう時間をかけて、推考されたと思います。
すばらしい。
>SINさま
ありがとうございます♪
イレイザー・ヘッドは見たこと無くて…ホントに塚本監督の「鉄男」のイメージがずっとあったんですよ。でもなんでこんな展開になったのだ?書いた傍から忘れております(笑)。
>tanokenさま
「ニューウェーブブリティッシュヘヴィメタル」を覚えるのすら必死なワシです(笑)。
メイデンのライブに何度も行った、てのが凄いと思います。チケット取るのに必死な思いをされたのかなぁ、と。
なかなか大きい場所まで見に行かなくて…基本、ライブハウス小回り君なワシでした(笑)。
>雑草Zさま
いつもありがとうございます!すみません、夜更かしまでさせてしまって…。
お仕事大丈夫でしたか?!
実は!メイデンは1枚も持ってません(爆)。単に名前を知ってるだけで…ひぇ〜(汗)。
鉄…メタル…すぐに浮かんだのはアイアンメイデン!よっしゃ使お〜!と思ったのです。
ワシがいつも聴いてるバンドを書いても誰も分かってくれないと思うので、メイデンさんに登場していただきました。
鉄男といい、メイデンさんといい、かなりキャラ借用しちゃってます!すいません!
ひょえー、すげー面白かったです、映画の鉄男よりもデビッド・リンチの処女作イレイザーヘッドの世界観の方が個人的に当てはまりました。
雑草Zさん同様です。
メイデンはHM、HR界の中でもかなり位の高いバンドです。
僕は高校時代から彼等のファンになり何度もライブに行きました。
何がそんなに凄いか?
彼等が発売したアルバムの殆どがプラチナディスクの獲得をしています。
いわば彼等はアメリカはもちろん、全世界を制覇していると言えます。
まさにNWOBHM界の王者ですね。
寝る前に、いつものカフェを覗いたら、久々にやさい嬢の新しい記事があった。
はじめのセンセイショナルな書き出しを
>「ぎゃああああああ」
まで読んで・・・思った。・・・・待てよ・・・また長い長いショートショートか(?爆)
明日は早いから、長かったら今読むのはやめよう、・・・と言う事で、スクロールして最後までの長さをチェック・・・と最後の文字が目に入った。
>アイアン・メイデン...
うっ、これは読むしかない!
メイデンのジャケットを飾るエディーのようにオドロオドロしい内容・・・・・展開を期待しながら一息に読んでしまった。
××× ××× ×××
[編集長-ひとこと] によれば、映画の作品へのオマージュと言う事ですが、やさいさんはメイデン自体は好きですか?
メイデンはHMの老舗って感じですが、バンド名やジャケットのイメージとは違って、彼らの曲ほど格調高い曲はないと思います。アイリッシュの香りもする気高く重い哀愁を含み、大英帝国の香りがします。駄作もありますが、私は、かなりのメイデンファンです。(でした。)特に長尺の曲、大作が素晴らしいと思います。
・・・ってついつい夜更かしです。目も冴えてしまいましたが、・・おやすみなさい。
コメントの投稿