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ミコちゃん降霊帳 第二話 「ジュエリー からの刺客」 (ショート・ストーリー)

ミコちゃん降霊帳




翌日の朝、あんまり気は進みませんでしたが、とにかくあたしは、学校へ向かいました。


 家から学校まで、走って約二十分かかります。

 最近、ちょっと体重が気になりだしたもんで、登校の時間を利用して一汗かくことにしたんです。

 勿論、あたしはつらいことや面倒なことが大嫌いですから、降霊術を使って 「心のしもべ二号」 の母さんに走ってもらってます。

 元の肉体からある程度離れたところで降霊術が自動終了してしまうのが、難点ですけど。











投稿者:クロノイチ


 教室に入るや、あたしは、クラスのみんなにさんざんからかわれました。いうまでもなく、泳ぎながら眠っちゃったことについてです。どんなふうにからかわれたかって? 思い出すのも嫌なので、教えたげません。

 でも、思ったより、みんなの関心はあたしに集まっていませんでした。ちょっぴりほっとしてます。

 実は、女子水泳部の四人組が怪我で全員入院したという話題の方に、みんなの関心が集中してたんです。昨日の午後六時頃、救急車で運ばれたそうで、その時まで学校に残ってた人は、みんなそのことを知ってました。まさかあいつらが、あたしを窮地から救ってくれるとは思いませんでしたね。

 それはそうと、奇妙だったのは、保健室が目茶苦茶になったって話が、どこからも聞かれなかったってこと。しかも、どこでどう話が伝わっていったのか知りませんが、女子水泳部の連中が怪我したのも、彼らが部室でらんちき騒ぎをやった末の事故ってことになっちゃってるんです。

 疑問に思ったあたしは、すぐさま保健室に行ってみました。すると、どうでしょう。あたしは唖然とするしかありませんでした。

 なんと、まるで何事もなかったかの如く、完全に復元されてるではありませんか。薬品類もきっちり揃ってるんですよ。

「あんた、昨日担ぎ込まれた人ね。どうしたの? ぽかんとイカリングみたいな口しちゃって。どっか悪いの?」

 保健の先生が毎度の調子で、あたしに話し掛けてきました。

「あのう、つかぬことを聞きますけど、ここ散らかってませんでした?」
「ううん。なんでそんなこと聞くの? ──ははあ、あんた夢遊病でしょ? それで、寝てる間に、何かしたんじゃないかと心配になったのね。大丈夫大丈夫。なんともなってなかったわよ」
「はあ……」

 おかしい。絶対おかしい。保健室での一件は、何者かの手で完全に揉み消されてしまっています。いったい誰の仕業でしょう? 不気味としかいいようがありません。

 さて。

「ミコちゃん、おはよ!」

 始業間際になって、マリちゃんこと古神真理さんが、元気に教室に入ってきて、あたしの肩を叩きました。──ギクッ。

「おはよう」

 そう言って、おそるおそるマリちゃんの顔を見ると、彼女ったら、にやりと薄気味悪い笑みを浮かべました。思わず恐縮してしまうあたし。

 あたし、昨日は、マリちゃんに制服を返したあと、彼女をベッドに寝かせたまま、一人でまっしぐらに家へ帰っちゃったんです。母さんに怒られちゃうって、すっごく焦ってたもんで、仕方がなかったんですよ。そりゃあ、無理やり起こせば起きたでしょうが、ダメージ受けてる人に、それはあんまりだと思ったんです。

「昨日は、よくもあんな奴らと一緒に置いてきぼりにしたわね。気持ち悪かったわ。五時半頃、目を覚ましたら、あいつらが床にぐてえっとノビてんのが、いきなり視界に入ってきて……。ああ、おぞましいったらありゃしない。──普通、目を覚ますまで待っててくれるもんよ。あんた、あたしより、親孝行の方が大事なの?」

 え? と一瞬戸惑いましたが、そうでした。親孝行です。厚意です。そういうことにしておきましょう。

「うん!」
と、力強く答えた後で、あたしは、マリちゃんの言葉に引っ掛かるものを感じました。マリちゃん、保健室の中で女子水泳部の連中が倒れてた状態を、しっかりと見てたんですね。これは、ちょっと、厄介ですよ。

「やれやれ、ま、あたしの仇をとってくれたことだし、勘弁してあげるわ。──そういえば、保健室、ぐちゃぐちゃじゃなかった? あれ、どうなってる?」
「しーっ!」

 あたしは、反射的にマリちゃんの上唇と下唇を、右手の親指と人指し指で挟みつけました。

「ばにふるぼよ!」
「昨日の保健室でのことは内緒。いい?」

 マリちゃんが首を縦に何度も振ったので、こちらが外すまでもなく、指の間からスポンと彼女の唇は抜けていきました。

「ああ、痛かった。ミコちゃん、手加減なしなんだもん」
「だって、あれ、あたしがやったのよ。誰かに聞かれちゃまずいでしょ」
「それもそうね。ごめん」

 マリちゃんが、すんなりわかってくれたので、あたしはそれ以上、何も言わないことにしました。

 マリちゃんはあたしに気を遣ってるつもりでしょうが、実際はその反対です。保健室での事件を揉み消した人にとっては、揉み消したはずの事実を知ってる人間が邪魔なはず。不注意なお喋りでその人を刺激してしまうことのないよう、あたしは、マリちゃんに口止めしたんです。あたしに関することで、マリちゃんには面倒をかけたくありません。

「もう、いいのよ。それより、マリちゃん、身体、大丈夫なの?」
「まだあちこち痛いけど、一応、大丈夫よ。それにほら、今日、期末テストの日程と試験範囲の発表があるじゃない。休んでなんかいられないわ」
「あ、そんなのもあったんだ」
「あんたはいいわよ。なんにも勉強しなくたって、学年一位取れるんだから。あたしは、今度こそいい成績とって、親にご褒美もらおうと思ってるの。猛勉強、やってやるわ。ミコちゃん、これから一週間、遊びになんか誘わないでね」
「はいはい」

 そう返事はしときましたが、内心ではあたし、ふふん、と鼻で笑っています。内心に鼻はついてませんけど。マリちゃんの決心なんて、どうせ長続きしないに決まってます。この子の根性は、所詮あたし並です。ついでにいうと、勉強の実力も、降霊術を使わない状態のあたしと、何ら変わるところはありません。それって、県内有数の進学校である、うちの学校の中では、かなり出来の悪い部類に入ります。

 さあ、朝のホームルームのチャイムが鳴りました。お喋りの時間はおしまいです。とはいっても、大部分の人は、まだ席にもつかずに、ぺちゃくちゃやってますが。

 それどころか、まだ教室に来てない人も結構います。──あっ、今、一人入ってきました。三界日音里(さんかい・ひねり)、通称、サンちゃんです。うちのクラスの女子のニックネームって、ほとんどが名前の一部に『ちゃん』を付けただけ。安直ですね。

 サンちゃん、制服のネクタイを手に持ったままですから、部の朝練に行った帰りだってことがすぐわかります。体育館の更衣室からこの教室まで、相当の距離があるもんで、チャイムが鳴ると、妙に気が急いちゃって、落ち着いて着替えていられないんですよ。

「ミコちゃん、昨日は見事なボケっぷりだったね」

 サンちゃんは、ネクタイを結び終えると、早速あたしの方へやってきて、いい加減聞き飽きてる台詞を、またしても聞かせてくれました。応答が面倒くさいので、寝たふりで対抗するしかありません。

「ぐうぐう」
「おい、おい」
「ぐう……………………」
「ちょっと! 用事あんだから、ホントに寝ないでよ」
「──ん? 用って何?」
「これ」

 サンちゃんが、一通の封筒を差し出しました。

「うちの部長が、ミコちゃんに、って」
「サンちゃんって、女子体操部だったわね。と、いうことは部長って、あの、ちまちました有名な……」
「そ。去年のインターハイ二位の、あの人」
「中賀(ちゅうが)さん、ね」
「うん。──今すぐ封を切ってくれない? 渡したら直ちに読んでもらうよう、ことづかってるから」
「どういうこと?」
「ぐずぐずするな。早く読む!」
「はい!」

 あたしは急かされるままに、封筒を開き、中の手紙を取り出しました。

「神懸さんっ!来たわよ!」

 突然、誰かが教室に駆け込んできて、そう叫びます。あたしが手紙の文面を見終えたのと、ほとんど同時でした。

〔今すぐ行きます。待っててね。──中賀絵里(ちゅうが・えり)〕

 これが手紙の文面です。何のための手紙だかわかりゃしません。

 もうじき、先生が来られる頃だというのに中賀さん、いったい何の用でしょう。

 中賀絵里さんは非常に小柄です。身長は一メートルほどしかありません。彼女は、その保育園児並の身長の低さを逆に利用し、年齢相応以上のジャンプ力を身につけることで、床運動での伸身三回宙返りを可能とした、すっごい人なんです。演技の優美さはかけらもありませんが、とにかく、くるくるよく回るので、去年のインターハイでは総合二位の成績を修めました。とかく校内でも、その活躍がよく話題に上る人です。

 その中賀さんが、わざわざあたしの席にまで、とてとてとかわいらしい足取りでやってきました。そして、椅子に座ってるあたしを見上げ、こう言ったんです。

「放課後、話があるから、体育館に来てね」
って。

 回りくどいにも程があるぞ、このガキ、と思いつつ、あたしは努めて冷静に、
「部活動の勧誘ならお断りですよ」
と、言葉を返しました。

「違うわ。もっといい話よ」

 中賀さんがにこりと微笑みます。極端な童顔なので、保育園児が笑っているように見えます。無垢な天使の笑顔です。しかし、高校の雰囲気には全然合いません。

「絶対来てよね。でないと、後でひどいわよ」

 そう勝手に言い残すと、中賀さんはちょこちょこと走って教室を出ていってしまいました。

 唖然として見送るあたし。

「どんな話があるか、聞いてる?」
って、サンちゃんに尋ねても、
「ううん」
の一言しか返ってきません。まったく、なんだっていうんでしょう。



 放課後です。「後でひどいわよ」の言葉が怖くて、あたしは体育館に向かいました。別に「もっといい話」ってのに釣られたわけじゃありませんよ。

 今日から期末試験が終わるまで、部活動は原則として禁止になります。ですから、体育館の中はがらんとしていました。

 そこであたしを待っていたのは、三人の女子。いずれも上級生です。三人とも体操服を着ています。一人は中賀さんで、残る二人は顔こそ見知ってますけど、名前まではわかりません。カバを想起させる山のような巨体の人と、割と長身で、ひょろひょろっとした人です。顔の描写は、二人に申し訳ないのでしないことにします。

「よく来てくれたわね。神懸さん」

 中賀さんがそう言ってあたしに近寄ってきました。

「お話ってなんですか?」
「話っていうのは、広辞苑によると……」
「そういう意味で言ったんじゃありません」

 ちょっとムッとしたあたし、我ながらつんけんした言葉遣いをしてますね。

「じゃあ、お話、はなし。──あ、今のはジョークね。面白かった?」
「え? どこか面白い要素がありましたっけ」
「あ、やっぱり通じなかったか。ごめんなさい。雰囲気を和ませようとして、冗談を言ったつもりだったんだけど。──あたしの冗談て、一般ウケしないのよ」

 当然です。ちなみにマニアックな人にも絶対ウケません。

「じゃ、ひょっとして、あの回りくどい手紙は、ギャグのつもりだったんじゃ?」
「あら、わかってくれた? あたしの冗談もまんざら捨てたもんじゃないわね」

 絶望的なギャグセンスです。ユーモアには理解のあるあたしも、思わずげんなり。

 中賀さん、学校ではすました顔しか見たことありませんでしたが、恐るべき正体を秘めていましたね。冷気をばら蒔くことに関しては、雪女を上回ると言わざるをえません。この人、多分古くさいオヤジギャグも大好物なんじゃないかな。家に帰った途端、「このモモヒキ、ステテコい」なんて言って、家の人を悲嘆に暮れさせているに決まってます。ああ、なんて悲惨な家庭。──この人、名前はなかなか面白いのに……。

「で、改めて訊くけど、お話って? ─まさか、ギャグの作り方を教えろってんじゃないでしょ」

 もう丁寧な言葉遣いをする気も起きません。

「教えてほしい気もするけど、今日はやめとくわ。それよりあなた、女子体操部に入らない?」

 中賀さんから意外な台詞が飛び出したもんで、あたしは、思わず鯉みたいな表情を浮かべてしまいました。

「え、朝、勧誘じゃないって、もっといい話だって……」

 これじゃまるっきり詐欺です。こんなにあっさりと約束を破ってくれるなんて、思いもしませんでした。

「気が変わったのよ。せっかく呼び出したんだから、チャンスは生かすべきだって、ね。でも、いい話があるってのは嘘じゃないわ。楽しみは最後に取っておいてよ。──で、部の方はやっぱり、駄目?」
「当然です」

 あたしはきっぱりと断りました。この箸にも棒にもかからない態度こそ、あらゆる部のあの手この手の勧誘を突っぱねるための秘訣なんです。普段、他人とのお付き合いには欠かせない、お愛想の微笑みすら表情筋の下深くにしまい込んでしまいます。

 突然、中賀さんの後方から、二人の上級生が勢いよく飛び出してきて、中賀さんの横に並びました。まるで、ドイツで捕まった小さい宇宙人の写真みたいな構図です。一瞬、何事かと思いましたけど、何のことはありません。大声で、二人いっぺんに喋り始めただけでした。

「じゃ、ねえねえ、女子相撲部に入りなよ。女子相撲って、水球並にマイナーなスポーツだろ。あんた、スッゴクかわいいから、うちの部の目玉にして、女子相撲のイメージアップを図りたいんだ」
「科学部に来てくださいよお。お願いしますよお。実験は終わってるんですけど、あたし達の頭じゃ、研究結果をまとめられないんですう。このままじゃ、九月の市の科学展に間に合いません。神懸さんの天才的な頭脳をどうかお貸しください」

 ヘン、誰が言うこと聞くもんですか。あたしは、中賀さんに脅かされて、いい話とやらを聞きに来ただけなんですからね。それ以外のことは、知ったこっちゃありません。

「お断りします」

 もう二度と勧誘しないで、って意味を込めて、あたしは、にべもなくそう撥ねつけました。

「あら、そう」
「ふうん」

 三人の上級生の眼差しが、急に冷やかなものに変わります。中賀さんのあどけない顔も今では冷たい能面の顔にしか見えません。

「じゃあ、しょうがないわね。本題に戻りましょう。いい話の中身よ」
「やれやれ、やっと聞けるのね」
「それでは。──おめでとう。あなたは『ジュエリー』の最優先ターゲットに選ばれたわ。もしあなたが無事この試練を乗り越えた暁には、この学校での自由と安心と居心地の良さが保証されるの。いいでしょ」
「ちっともいい話に聞こえないんだけど。もっとわかりやすく言って」
「これから襲いくる刺客をことごとく打ち倒したら、あなたに安らぎが訪れるわよ、ってこと。まあ、無理でしょうけど。ちなみにあたし達も刺客ね。というわけで、『ジュエリー』の名の下に、あなたを再起不能にします。──神懸さん、バックレずにここに来て正解だったわね。来なかったら予告もなしに闇打ちよ」
「何よそれ! 部活をやらないぐらいで、なんでそんなひどい目に遭わなきゃならないのよ」

 あまりの理不尽さにあたしは憤慨しました。

「どうしてかしらね。特に部活は関係ないんじゃない? あなたがどこかで『ジュエリー』に楯突くような真似を仕出かしたんでしょ。──フフン。あたし達の部のどれかに入ってくれたら、かばってあげたのに」
「何にもしてないわよ。だいたい『ジュエリー』って何なの!」
「さあね。だけど、この学校で『ジュエリー』に狙われたら最後、絶対に無事ではいられないわ」
「そういうこと。──この仕事、あたしがもらった。助太刀はいらないよ」

 厚い皮下脂肪でダブダブにくるまれた巨大な怪物が、一歩前に出てきました。

「女子相撲部部長、甲鳥久美(こうとり・くみ)。人呼んで、スリーサイズと体重と身長の数値が全て同一の女。──神懸さん、するめみたいに押し潰してやるよ」

 とっても長い通称の持ち主である甲鳥さんが、四股を踏みます。床に激しい振動が伝わり、窓ガラスが一斉にピシリと音を立てました。

「本気で暴力ごっこしようっての? あたしに怪我させて、警察沙汰になったら、あなただってただじゃ済まないわよ」
「事後工作さえしっかりやっときゃ、ただで済むよ。三十人も偽の証人を仕立てとけば、それでもう充分。数の力は絶対さ。あんた一人がどれだけ真実を訴えたって、三十人が一度に唱える嘘には勝てやしないよ」
「げ。そこまで考えてたの」
「ふふふ。女子水泳部を一人で壊滅させた怪物が相手だ。相手にとって不足はないな」
「あなた、女子水泳部のこと知ってるの?」
「当然。女子水泳部の部長こそ、『ジュエリー』が送った最初の刺客。部員まで連れていった挙げ句、壮絶にやられちゃったけどね。あのあと、事件が表面化しないよう、手を打ったのはあたし達なのさ」

 あれあれ、女子水泳部の連中、やっぱりあたしを狙ってたんでしょうか? なんか話が食い違ってます。──ま、それはいずれ、ゆっくり考えるとして、今は……。

「おっと、お喋りが過ぎたようだね。──勝負だ。どすこい」

 いやいや、女の子が「どすこい」はないでしょ、「どすこい」は。

 ともあれ、ピンチです。困った時は降霊術。誰を降霊しましょうか。一番楽なのは女子水泳部の部長をやっつけた方法ですね。目の前の人を降霊して、自分で自分をやっつけさせるんです。ただ、この人、あたしとあんまりスタイルが違い過ぎるもんで、憑依した時にどんな戦い方ができるか、ちょいと不安。あと、一撃で仕留められるかが問題です。幾ら魂が抜けて無力化してしまってはいても、耐久性は恐ろしくありそう。何せ攻撃を受けた瞬間に魂が戻っちゃいますから、一発でのしてしまうしかないんです。
それなら、橘君の方が実績がある分、安心感はありますね。彼を降霊してのケンカはまだやったことないんですが、彼が十人の不良を一瞬で叩きのめした場面に、偶然出くわしたことがあるんですよ。飄々とした優男なのに、なんかいろんな武道をやってるみたいで強い強い。彼が今、図書室みたいな静かな場所に、一人でぽつんといてくれれば嬉しいんですけどね。またどこかの部の勧誘を受けてる最中だったら、どうしよう。──ああ、別にどうもしないか。橘君が急に倒れて騒ぎになったとしても、それであたしの秘密がバレるわけじゃないし。

 あたしは心を決めました。橘君を降霊します。彼がどこで何をしていようと構いません。例え誰かに揺さぶられて降霊が解除されるとしても、そうなる前に勝負を決めてしまえばいいんです。頼んだからね。橘風太。

「ウェルカムウエルカム・ライライライ、来たれ我が心のしもべよ。──降霊!」



 ミコちゃん劇場・二 『放課後の決闘』

 神懸美子は、彼女の視野を覆い尽くすかのように眼前にそびえ立つ巨大な肉の壁に対して、動じる気配すら見せなかった。ただ端然と立っている。その表情は冷たく、硬い。内心を見せるのを頑に拒んでいるようでもあり、何も考えていないようでもある。昼でも陽光がほとんど差し込まない体育館の、くすんだ空気の中にすっと佇む彼女は、甲鳥久美の全身から発散される凄まじい闘気を、全く知覚せぬかの如く平然と受け流していた。

 甲鳥久美は、神懸美子の落ち着き払った態度を不気味に感じた。闘気と鋭い睨みをぶつけながら、己の威容をたっぷりと見せつけることで、まず相手を萎縮させてかかるのが、彼女の常套手段である。そんないつもの作戦が、上滑りしていっている。勝手の違う、やりにくい相手だった。

「どうした。怖じ気づいたのか」

 甲鳥久美は、挑発して、とにかく相手の反応を見ようと試みた。

 だが、神懸美子は応答せず、表情を動かすことすらしない。ふと甲鳥久美は、相手を前にして怯みつつある自分に気付いた。神懸美子に彼女を威圧する要素は何一つないにも関わらず、なぜか得体の知れない不安を感じずにはいられないのだ。

 その要因に甲鳥久美が思い当たるまで、さほど時間を要しなかった。

(こいつから何も返ってこないこと、それ自体が曲者なんだ)

 甲鳥久美が闘志を剥き出しにすれば、相手はとにかく、怖じ気づくなり、闘志を返すなりの反応をするのが普通である。その普通の手応えを彼女は欲していたのだ。自分の闘志が相手になんの影響も及ぼせないでいるという、ある意味での無力感、虚しい空回りの感覚は、彼女の気力を著しく萎えさせ、彼女を浮き足立たせた。闘志はぶつかり合う相手があってこそ激しく燃え上がるもの。今の彼女は、不完全燃焼の状態で闘うことを強いられてしまっていたのである。

 空気が重い。ねっとりと甲鳥久美の全身にまとわりつく。闘志を保ち続けようと努力すればするほど、彼女の焦りと緊張は高まっていった。

(いかん。自縄自縛だ)

 やっとそこに思い当たった甲鳥久美は、張り詰めた糸を自ら切った。ふうっと一気に息を吐き、それからゆっくりと大きく空気を吸う。次いで、手足をぶらぶらと動かして、緊張をほぐした。

 冷静さを取り戻した頭で、対峙する以前の心境をもう一度反芻する。

(神懸美子が、いかに無敵の呼び声高い天才少女であろうと、所詮は吹けば飛ぶような小娘。かなり正体不明なところはあるが、それでも全身に百七十八という数字を五つも有するこのあたしが、体力面で圧倒的に有利。負けるわけがない!)

「さあ、いくよ」

 甲鳥久美は、相手を気にかけず、マイペースで闘うことにした。精神的な余裕を作るために、相撲の仕切りの態勢をとる。形式的動作の型に自分を嵌め込めば、次にするべきことは自ずと決まってくるから、取り敢えず落ち着いていられた。

「八卦よい!」

 そう一声叫んで、甲鳥久美は、神懸美子目掛けて突進していった。巨大な肉体からは想像もできないほどの鋭い出足である。彼女の踏み込みの一歩一歩が、体育館の空気を震わせ、安っぽい床板に悲鳴を上げさせた。

 たちまち相手に迫った甲鳥久美が、自慢の太い右腕で、相手の顔面目掛け、掌底突きを繰り出す。彼女の腕の筋肉のバネが生み出す爆発的なパワーに、百七十八キログラムの体重と突進のスピードが相乗して、まさに一撃必殺の破壊力を秘めた掌が生まれた。その前には厚さ五センチメートルの木板すら、ひとたまりもないだろう。

 電光の一撃を前にして、神懸美子が、全てを諦め冥目するかのように両眼をすっと閉じる。捉えた、と甲鳥久美は確信した。

 しかし、甲鳥久美が捉えたと思ったのは、実は、相手の残像に過ぎなかった。攻撃が空振りに終わったのを知覚する間もなく、彼女は、顎に強烈な衝撃を受け、唾を吐き散らしながら、数メートルも撥ね飛ばされた。

「伊賀に伝わる無想闘術だ」

 神懸美子が、意識を失った甲鳥久美を横目に見ながら、初めて口を開いた。技の名が彼女の技の全てを物語っていた。彼女は、相手の攻撃を避けようとする意志も、相手を倒そうとする意志も持ち合わせていなかったのだ。ただ無心、それだけだった。

 無想の境地の中に、殺気という名の影が落ちる時、神懸美子は、本能的に危険回避運動に出る。動物的な自己防衛本能が、反射的に殺気をかわし、殺気をもたらす根源に向かって、神速の攻撃を打ち込むのである。殺気の知覚から運動までの間、何の思考も意志も介在しないがゆえに、そのスピードと瞬発力は、精神を統一した状態の動きさえも遙かに凌駕する。そして、正確無比さについては、まさに鍛練の賜物としかいいようがない。

 神懸美子は、その一瞬、甲鳥久美の顎に旋風と化した後ろ回し蹴りを叩き込んでいた。自分が何をしたのか、覚えてさえいなかったが、手応えはしっかり身に残っている。それで充分だった。要は勝てばいいのである。

「次は、どいつだ」

 神懸美子は次の対戦相手を求めた。

「は、はあい」

 背の高い、痩せっぽちの娘がおどおどとした態度で応える。

(何だ、この気迫のない、隙だらけの女は。こんな奴が、俺の闘う相手だというのか)

 訝る神懸美子に、長身で華奢な体格の娘は震える声で、こう話し掛けてきた。

「あ、あのう。ちょっと、変わったお願いがあるんですけどお……」

 あれ、やけに、あっけなく片がついちゃいましたよ。とんでもない太っちょの甲鳥久美さんが、傍らに気絶して転がってます。腕自慢みたいでしたけど、所詮は女子高校生。橘君の敵ではなかったということですね。

 それにしても、なんであとの二人は無事なんでしょう。ひょろっとした科学部の人は、あたしの目の前にぴんぴんして立ってるし、中賀さんはステージで横になって、暇そうにあたし達を見ています。こんな状態で、橘君、どうして戻るって合図送ってきたのかな。

「どうですかあ? 私の提案」
「え? 何?」

 ひょろっとした科学部の人に突然、妙なことを言われ、あたしは面くらいました。もっとも、向こうとしては、単に話の続きをしているだけなのでしょう。どうやらこっちが話の途中で入れ代わってしまったみたいです。

「聞いてなかったんですかあ? さっき、うんうんと頷いてたじゃないですか?」
「ごめん。度忘れしちゃって。もう一度、そっちの名前から順に話してもらえない?」
「あのう、私、まだ、自分の名前、一度も言ってなかったんですけどお」

 この人の喋り、聞いてると、なんかイライラしてきます。とても、あたしを狙う上級生の言葉遣いとは思えません。これじゃ、上級生相手に無礼な口をきいてるあたしの方が、浮いてしまいます。

「とにかく最初からお願い」
「私の名前は、西園州リカ(さいえんす・りか)といいます。科学部の部長です。私、気が弱いし、腕力もないんで、クイズで勝負したいなあ、と思ってるんですけどお、どうですか、って、さっき言ったんです」
「『クイズで勝負』ったって、クイズじゃ、あたしを再起不能になんてできないわよ」
「そりゃそうですよね。中賀さん、乱暴だからよくそんな物騒な表現を使うんですけど、実のところ、『ジュエリー』からの元々の指令は、ほんの何週間か神懸さんを使い物にならなくすれは、それでいいってことなんで。だったら私にもワンチャンありかと」

 西園州さんが急にひそひそ声になります。話の内容を中賀さんに知られたくないみたいです。だったら、あたしも、声をひそめてあげましょう。

「ワンチャンなんてないでしょ。たとえあたしがあんたにクイズ勝負で負けたところで、『だからどうなの』って話。結果なんて幾らでも無視できるじゃない」
「それが大丈夫なんですよお。──ところで神懸さん、あなたは超能力の存在を信じますか?」

 何を唐突に、って思ったけれど、あたしも超能力者みたいなものの端くれ。こう答えないわけにはいきません。

「信じるわよ。それがどうかした?」
「なら、話が早いです。実は私、超能力があるんですよお」
「え?」
「元々私が科学部に入ったのも、自分の能力を科学で説明できないかと……。あ、今はどうでもいいですね。とにかく私には不思議な力があるんです」

 そう言って西園州さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべました。ゾクリ。背筋に戦慄が走ります。思わず身構えるあたし。超能力者を相手にどうやって戦えばいいのよ。あれ、そしたら、なんでクイズで勝負したがるの? あれ?

「説明しましょう。私と勝負して負けた人は、どんなに強靱な精神力の持ち主であろうと例外なく、一か月はひたすら落ち込み続け、とことん無気力になります。なぜかはわからないんですが、間違いなくそうなるんですよね。カウンセリングも薬も効きません。だから、神懸さん。私と勝負しましょう、クイズで。平和的でお互い怪我もなく、最高じゃないですかあ」

 何それ。思いっきりヘンテコリンな能力ですね。変わり種の度合いからいえば、生霊しか自分に憑依させられない霊媒師を二ランクほど上回っています。

「馬鹿馬鹿しい。あたしはあんたを一方的にやっつけることができるのに、どうしてそっちの都合に合わせなきゃならないの」
「私の能力を聞いた以上、勝負を断った時点で不戦敗になりますよ。あなたの負けってことです。いいんですか?」
「じゃあ、問答無用じゃないの」
なんかハメられた気分です。橘君、こんな人の話なんか無視して、さっさとぶっ飛ばしといてくれたらよかったのに。
「わかったわよ。やるわ。でも、あんた、自分が負けた時はどうするの? 何のペナルティもなしなんて許さないわよ」
「そうですねえ。私も痛いのは嫌だし、お金もあんまりないし、『ジュエリー』についての情報提供っていうのも、バレたらこっちの身が危ないし……」
「で、何ならできるのよ!」

 あたしは凄んでみせました。

「ひっ、そんなに睨まないで。と、とってもおいしいラーメン屋さんを教えるっていうんじゃ、ダメですよね。やっぱり。どのグルメサイトにも出ていない隠れ家的なお店なんですけど。一見様お断りで、会員の紹介が要る店なんですけど」
「お願いします」

 何たる僥倖。あたしはラーメンにはとにかく目がないんです。さあ、勝つぞ。どんなクイズかな。

「では勝負です。ジャンルはとんちのなぞなぞ。お互い一問ずつ出します。答えられなかった方が負けです。二人とも答えられなかったり、二人とも答えられた場合は、次の勝負となります。──じゃ、まず、問題を作りましょう。一分間で考えてください」

 とんちのなぞなぞですか。雑学系のクイズなら橘君にお任せと思ってたんですが、彼のとんちの実力は未知数。ならば、問題を作るのも解くのも、あたしがやりましょう。あたしみたいなひねくれ者の方が、とんちのなぞなぞには向いているんです。実際、屁理屈であたしに勝てる者はクラスにいませんし。とんちも屁理屈もはっきり言って一緒ですよね。

 というわけで、今回は降霊術、なしです。

「──一分経ったんですけどお、いいですかあ」
「いいわよ」

 いよいよ勝負です。最初は西園州さんからの出題ということになりました。

「いきます。──王貞治さんが、西武の監督になりました。背番号は何番でしょう?」

 おお、いきなり超難問です。王さんといえば以前、プロ野球の監督をやってた人ですよね。今は何をやってるんでしょうか。で、西武といえばパリーグの球団。実にマイナーなところを突いてきますね。普通、あたしぐらいの歳の女子だったら、問題の意味さえチンプンカンプンですよ。──ですが、このあたしには通用しません。プロ野球の知識はほんの少ししかありませんが、この問題を解くのに必要なものはオヤジギャグのセンスだけ。ならばあたしに解けないはずはない。そう。一瞬でピンと来ました。

「答えは、百十番でしょ」
「う! ──そのココロは?」
「これがホントの百十の王! ライオンズの監督ってのが、ミソなのよね」
「ガーン。徹夜して考えてきた、会心の問題だったのに」
「ずっるーい! さっきの一分で考えたんじゃなかったの? ──まあ、いいわ。簡単だったから。次はこっちね。最初だから、あたしもまずは簡単な問題、出してあげるわ」
「え、ありがとうございます」

 フフフ、単純な人ですね。

「問題。──犬に羽が生えたら何になる?」
「えっ?──ええと。それ本当にとんちのなぞなぞですかあ?」

 西園州さんがきょとんとした表情を浮かべます。

「とんちのなぞなぞよ」

 あたしがぶっきらぼうに言うと、西園州さんは首をひねりながら脂汗を垂らし始めました。

「──ううう、わかりません。あたしの負けです。降参します。──答え、何なんですかあ」

 考えに考えた挙句、西園州さんが遂に白旗を掲げました。なので、あたしは意気揚々とこう言ってやります。

「答え。──犬に羽が生えたらね、羽の生えた犬になるのよ」
「ええー! そんな問題のどこが、とんちのなぞなぞだっていうんですかあ」
「意表を衝いた答えだったでしょ。常識に囚われてちゃ答えに辿り着けない──それが本当のとんちってものよ」

 ハアー、と西園州さんが大きく息を吐いてうなだれます。
「──ラーメン屋さん、今度一緒に行って紹介してあげますねえ」
「約束よ」
「では、これで私は……」
「あ、ちょっと。ここ出ていくんなら甲鳥さん、連れて行って」
「はーい」

 西園州さんは、重い甲鳥さんをゴロゴロと転がしながら体育館を出ていきました。とても転がしやすい人みたいです。



 さあ、残ったのは中賀さんのみ。それまでステージ上で寝ころんでいた彼女が、いよいよ立ち上がります。

「まさか、あたしに出番が回ってこようとはね。でもあたしは、あのふがいない二人とは違うわ。『ジュエリー』の正規メンバーであるこのあたしが自ら相手になる以上、あなたは今日以降の日々を、死ぬまでベッドの上で過ごすことになるのよ。──とおっ!」

 おおっ。あれは、伸身三回宙返り! ──中賀さん、カッコつけて、ステージからなんと物凄い宙返りで降りてきました。見事です。着地もぴたっと決まってます。けど、のんびりと見とれていられる状況じゃありません。何しろ言ってることが物騒過ぎます。とんでもない武闘派です。

 あの自信から察するに、中賀さんは体操の技を応用した格闘技をマスターしてるのかも。とすれば、空中回転からのキックなんかが得意技でしょう。きっとライダーキックばりの、恐ろしい威力を秘めているんでしょうね。

「あんたが、『ジュエリー』のメンバー? じゃあ、あの二人は違うの?」
「当然。あの人達は『ジュエリー』の使い走りのようなもの。誇り高き『ジュエリー』のメンバーは、たった十名しかいないわ。中でもあたしはナンバーファイブ。『ジュエリー四天王』を除いた中では最上位ランクよ」

 いやいや、勝手に四天王を除いちゃいかんでしょ。むしろ四天王から落ちこぼれた感がありありと……。──おっと、今はそんなことはどうでもよかった。

「やっぱりあたしとやろうっていうの? あんたも相当自信はあるんだろうけど、あたしには勝てないわよ。さっきの戦い、見てなかったの?」

 すみません。言ってる本人は全く見ていません。

「ふふふ。横目で見ていたわ。強いわね、あなた。だけど、あたしが負けるとは思えない」
「そう。なら、思い知らせてあげるわ。──そういえば、あたしを狙う『ジュエリー』のこと、あなたに聞けば手っ取り早いわね。あなたに勝ったら、教えてくれる?」
「勝てたら、ね」

 ようし、先手を取って降霊術です。もう一度橘風太君にさんにお願いしますね。続けざまの降霊ですが、三人全部をやっつけるのが元々のノルマ。別に構わないでしょう。

「ウエルカムウエルカム……」
「いくわよ。──あたしのオヤジギャグ攻撃、受けてみな!」
「へ?」

 オヤジギャグ? ウケない冗談しか言えないと、自他ともに認める中賀さんが、なぜ今こんな時にオヤジギャグを?

 確かに下手くそな冗談を言うのも、中賀さんのキャラクターには違いありません。ですが身の程もわきまえず、このあたしと、洒落で勝負しようだなんて無謀です。かくいうあたしだって、ウケ狙いに徹した洒落というのは苦手な方ですが、さすがに中賀さんに負ける気はしません。──もしかして、中賀さん、何か他に魂胆が……?

「銀座で、ビギン・ザ・ビギン……。ソウルで、味噌売る……。甲府の豆腐。シカゴの虫籠! 明治の有名人! 娼婦が破傷風。胃潰瘍が痛いよう! 球審が急死! 傷心の余り小心者が焼身自殺! 三時に大惨事! 二時に虹! 九時に籤引き! 十時から仕事に従事! 熊の目の下に隈! 北に来た! 正直な掃除機! 靴を履くのは苦痛! 猫が寝ころんだ! 車で来るまでもない! 引っ越しは運送屋任せかい? ──うん、そうや!」
「うわああああああっ!や、やめて。頭が、頭が痛いっ!」

 余りにくだらないオヤジギャグを、唐突にマシンガンみたいに連発されたあたしは、物凄い頭痛に苛まれました。だいたいあたしは、ただでさえ下手くそな歌と笑えない洒落を聞かされるのが、大の苦手なんです。あたしは歌も洒落も好きですが、聞くに耐えないものだってあります。そんなののオンパレードとなると、もはや拷問を受けているのと変わりありません。

 いや、それにしたってこの破壊力は異常です。もしやこれは超能力に属するのでは? つまりオヤジギャグを媒介とした精神攻撃。きっとそうです。

 あたしは、遂に耐えきれなくなって、頭を押さえてうずくまりました。──おそるべし中賀絵里!

 とはいえ、中賀さんにわざとつまらないオヤジギャグを言うだけの余裕があるとは思えませんね。結局、どこか割り切れない思いをしながら、真剣に本人基準でのみ面白いオヤジギャグを絞り出しているに違いありません。

「どう? あたしのオヤジギャグは、単に連発するだけで最強の必殺技になるのよ。あたしの美しい声を聞きながら、廃人となっていくがいいわ」
「くっ」
「じわじわと痛めつけてあげるわね。──奇怪な機械……。あしたのあたし……。君は不気味……。ほうら、じんわり効いてきたでしょ」
「言ってて虚しくない? あんたのオヤジギャグ、元々は人を笑わせるためのものでしょ。ま、絶対に無理だけど。それにしたって、人に苦痛を与えてどうすんのよ」
「ああ! よくも気にしてることを。もう、全開でいくわよ。どうなっても知らないから。──そこにいるのは、蚤のみ! 蠅は速ええ! 虻は危ない! うじうじした蛆! バッタがばったり! 蜘蛛が苦悶! 虫は無視……」
「あ、あああ!やめて、やめてよ!」

 なんか、頭がおかしくなっちゃいそう。脳味噌をすりこぎで磨り潰されてるような苦痛があたしを襲います。──あたしは、頭を抱えて転げ回りました。

 そんな時です。パンク寸前のあたしの頭の中に、天啓にも似た、ある一つの考えが浮かびました。こうなりゃ、即、実行です。松尾芭蕉、もとい、小林一茶、じゃなくて、そうそう『廃人』にはなりたかないですもんね。

「!」

 中賀さんの目がぎょっと見開かれます。何か言ってるようですが、あたしには聞こえません。両方の耳を指で完全に塞いでしまったからです。ふふふふふ。もっと早くこうすりゃよかったわ。

 遂に、中賀さんが、暴力に訴えてきました。三回ひねりキックです。──危ない!

 橘風太君を降霊しなきゃ!




 おや、橘君、やり過ぎちゃったみたい。中賀さん、床にベチャッとノビてますよ。息はしてますが、この様子じゃ、当分は立ち直れそうにないですね。──あれ? じゃあ、「ジュエリー」のことも聞き出せないってことじゃありませんか。

 仕方がありません。今回は、「ジュエリー」のメンバーが十人だってわかっただけでも、良しとしましょう。残りは、また次に襲ってきた人に聞くということで。

 さあて、帰るとしますか。

「──待ちな!」
「キャッ!」

 体育館を出ようとしたあたしは、ドアの外からやってきた謎の集団にいきなり弾き飛ばされました。

「だ、誰?」

 あたしの前に六人の女子が立ちはだかりました。誰かと思って顏を見ると、皆、学校の中ではそれなりに有名な人ばかりです。

「ふふふ、神懸美子……」

 気絶状態から僅かに回復した中賀さんが、弱々しいながらも勝ち誇った声で話し掛けてきます。

「使いっ走りの二人があなたに負けてしまった時点で、念のために手の空いてる『ジュエリー』の仲間を呼び寄せておいたの……。── 『ジュエリー』の正規メンバーが六人。中には四天王も一人いる。あなたに勝ち目はないわよ……」
「な、なんてこと……」

 あたしは激しい衝撃を覚えました。

 別に中賀さんの言葉は関係ありません。目の前の六人の顔ぶれを見て、物凄いことに気付いたのです。

 「ジュエリー」の正体がわかりました。これは推測ではありません。確定です。あたしは思わずげんなりした顏で中賀さんを見たのでした。
                                             第二話 完



 この物語は一応続きものなので、一話からお読みいただけると幸いです。

 もっとも、ネタやダジャレをつなぎ合わせただけのしょーもない話ですが。

 なお、あと一話で完結となります。

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[ 2015/06/07 23:44 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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