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ミコちゃん降霊帳 第三話 「ジュエリー総司令 後編」 (ショート・ストーリー)

ミコちゃん降霊帳



前回のあらすじ

 「ジュエリー」の組織の謎を解いた神懸美子は、ナンバーワンを除く全てのメンバーを撃破。だが、その時、生徒会室の空間に異様な文字群が浮かび上がっていた。


 
そう。まさにこれ。細かい明朝体で書かれた「前回のあらすじ」が、室内をふわふわ舞っています。
 
 怪し過ぎですね。
 
 でも、まあ、残るは、「ジュエリー」のナンバーワンただ一人。わけのわからないことは後回しにして、サクッと部活動ファイルを調
べてしまいましょう。
 
 あれ?

 部長に該当者がいません。どういうこと?
 
 まさか平の部員? いやいや、ありえない。きっと部に所属していない何らかの権力を持った人です。「エリ」という名前でそれに

 該当する人といえば……
 
 わからないから、やっぱ今日は帰ろうかな。
 
 そう思って生徒会室を出ようとした時、

 「お待ちなさい!」

 突如として、あたしを引き止める声が室内に響き渡りました。











投稿者:クロノイチ


「誰?」

 あたしは辺りを見回しましたが、広大な生徒会室の中には、あたし以外に、意識のある人間は一人もいません。

「せっかくマンガ風に派手派手しく盛り上げてあげているのに、あなた、少々淡白過ぎはしませんか。部活動ファイルに載っていなければ、生徒会組織図を見るなり生徒名簿を見るなりしたらどうです。こちらは、あなたが何か閃いた時のため、わざわざ『電球マーク』を用意して待っていたのですよ」
「さっきから妙な映像やら文字やら出しまくってるのは、あんたね」
「私は場の雰囲気を最高潮にするのが趣味なのです」
「いったいあんたは誰なの? 出てきなさいよ」
「私は『ジュエリー』のナンバーワン。『ジュエリー四天王』の筆頭。そして、『ジュエリー総司令』の作戦参謀」
「『ジュエリー総司令』ですって? そんなの初耳だわ」

 あたしは姿なき声の主に向かって、そう言いました。──あと一人やっつけたら終わりだと……終わりだと信じてたのに。

「ジュエリーは、それを身に付ける者が存在して初めて、真に光り輝くのです」
「ちょっとお、出てきなさいってば!」

 声はすれども、姿は見えず、というのは非常に不気味です。

「お望みとあらば、姿をお見せしましょう。ただし、立体映像ですけれど」

 すると、ぼうっとした人影が、生徒会室の一角に浮かび上がりました。

「ああっ! あんたは!」

 あたしは思わず叫びました。背中まで届く赤茶色の髪、異様に長くしかも黒い睫毛、切れ長の大きな目。こんなに目立つ特徴をもってる人は、あの人しかいません。うちの学校には、エリ峰田さんの他に、超有名なハーフがもう一人いるんです。全生徒を代表する立場にあるあの人が。

「私は、エリ・エリ・レマ・サバクタニ・イトウ。──通称『エリ伊藤』と言えばおわかりかしらね」
「当然知ってるわ。生徒会長だもんね。加えて、何だか知らないけどいっぱい賞をもらった天才科学者でもある。──なるほど。こんな立体映像なんて、あんたには朝飯前のことかもね」
「あら、朝御飯はしっかりいただいてますわよ」

 ビミョーな返しが来ました。無視します。

「うっかりしてたわ。『エリ』といえば真っ先にあんたを思い出さなきゃならなかったのに。あんたが、あたしを襲えという指令を、『ジュエリー』に発していた張本人なのね」
「そうです」
「なぜ、あたしを狙うの?」
「邪魔だったものですから」
「なんであたしが邪魔なの? 峰田さんが言ってたけど、あたしが『ジュエリー』の未来に災いをもたらすから? ──そんなのあなたにどうしてわかるのよ?」

 伊藤さんの余りに理不尽な言いぐさに、あたしは怒りを覚えつつ問い質しました。

「私が峰田さんにそう言ったのは、あなたを襲わせるための、単なる口実に過ぎません。本当のところ、私には『ジュエリー』の将来なんてどうでもいいのです。なぜなら、私が『ジュエリー』を結成した元々の目的が、あなたとその仲間を打倒することにあるのですから」
「え?」

 それってつまり、「ジュエリー」のためにあたしを襲ったのではなく、あたしを襲うためにそもそも「ジュエリー」があったってこと?

「今まで『ジュエリー』の傘下の人達に好き放題させてきたのは、この私の壮大な計画の最大の障害となる人間を捜し出し、除去するための手駒になってもらうためだったのです。」
「それが『ジュエリー』の存在意義? だけど、なんであたしが……」
「あなたの疑問は、私と話していればいずれ消えるでしょう。しかし、核心に触れる前に言っておきたいことがあります。──私の命は、もうそんなに長くはありません。脳に先天的なややこしい欠陥があって、現代の医学でも直せないんです」

 いきなり伊藤さんが、悲しげな表情を浮かべ、衝撃的な事実を言いました。どう反応したらいいのかあたしにはよくわかりません。あたし、暗い話って苦手なんです。

「ですが、私は一人では死にません。どうせ死ぬものなら、自分の意志で、そして、華々しく地球上の全ての生物を道連れにして死んでやります。それが私の悲願!」

 おやおや、今度はとんでもないことを言い出しましたよ。同情の余地が一瞬でゼロになってしまいました。

「そんなこと、できるわけないでしょ!」
「まだ気付きませんか? ──『選ばれし者』のくせに……」
「『選ばれし者』って何? 勿体ぶらないでよ。ただでさえこんがらがってるんだから」
「捜しましたよ。泳ぎながら眠ることのできる人間を」
「へ?」

 胸がズキンとしました。ヤな思い出をつついてきますね。──それにしても伊藤さん、ころころとよく話題を変える人です。

「この学校に、泳ぎながら眠ることのできる人間は五人います。あなた以外の四人はまだ確認できていませんが、この学校にいることは確かです」

 つい先日、どこかで聞いた話ですね。おぞましい人達の記憶が、鮮明に蘇ってきそうなので、これ以上は考えたくありません。

「その五人は、この学校に来ることを宿命づけられていました。二年半前、それを知ったあたしは、直ちに来日し、執事の名を借りて、この学校を買収したのです。そして、執事を理事長の座に就かせるや、自ら生徒として入学し、豊富な資金と理事長の権力とを利用して、将来の部長候補を集めたエリート生徒集団『ジュエリー』を結成しました。メンバーを全員『エリ』という名で統一したのはご愛嬌ですが」
「……」

 いや、きっと「エリ」を十人揃えるのに並々ならぬ執念を燃やしてたと思いますよ。中賀さん共々。なんかさっきからの無駄に頑張った演出を見てると、そんな気がしてなりません。

 伊藤さんが続けます。

「短命であることを宿命づけられた代わり、知能指数四百の超天才として生まれついた私は、科学者となって、八歳の時から、NASAで超次元通信の研究に携わってきました。その傍らで片手間に取得した特許は数知れず。ロイヤリティーの収入だけでも年間数千万ドルになります。──ですが、その程度の業績で死んでいくのは嫌でした。私にも超天才としての意地があります。せめて世界征服クラスの偉業をなし遂げてから死にたいと、常々考えていました」
「はあ」
「二年半前のことですわ。私は超次元アンテナの実験中、実用化されていないはずの超次元通信の信号を、偶然キャッチしたのです。信号の内容を解読し、それが水の発したSOS信号だと知った時、私は、これだ、と叫びました。最後の研究にふさわしいテーマを見つけたからです。地球上の全生物を道連れにして死ぬという壮大なテーマを。──手段はとっくにおわかりですね」
「いいえ」

 そうあっさり返事すると、伊藤さんがあきれたような顔をしました。

「知らないふりは、もうしなくていいのですよ。私は何もかも知り尽くしてしまっているのですから。──答えは一つ。水を殺すのです」
「水を、殺す?」
「あくまで知らないふりですか。ならば、言って差し上げましょう。──地球上の水は、全体で一つの生命を持っています。この地球上の全ての生物は、水の生命を借りているに過ぎません。水が死ねば、全生物は一瞬にして滅び去るのです!」

 あれ、これって、どこかで聞いた台詞。そうだ! 女子水泳部の人達が言ってたことと、そっくり同じじゃありませんか。極めて突飛な話なもんで、心になかなか滲み入ってきませんが、変態四人組と伊藤さんの話の符合、妙に気になります。──これはマジな話なのかもしれません。一応、理解に努めてみなければならないでしょう。

 まず、伊藤さんの目的は、女子水泳部の対極にあるみたいです。するってえと、伊藤さんがあたしを狙う理由ってのは……?

 ああっ! もしかして、あのインチキくさい水泳戦隊スイレンジャーの排除?

 とすれば……。

 あたしの頭の中で、数々の謎が一気に解きほぐされていきます。たとえば伊藤さんは、「ジュエリー」の結成の動機を、あたしとその仲間を打倒するため、と説明しました。あたしの仲間って誰のことなのか、ちんぷんかんぷんだったんですけど、今となっては、女子水泳部の連中のことだとはっきりわかります。

 要するに、水が発したメッセージを傍受した伊藤さんは、水を殺して、地球上の全生物と心中しようと思い立ったけれども、同時にそれを妨害する勢力として、スイレンジャーがいることも知ったわけです。それで、スイレンジャーが集合するというこの学校をわざわざ買収し、自らも生徒となって「ジュエリー」を組織した。──スイレンジャーをやっつけるために。

 で、泳ぎながら眠れる生徒を捜したものの、なかなか見つからない。ところが二日前、一学年の水泳大会で、泳ぎながら眠ったバカを発見した。これがスイレンジャーだと確信した伊藤さんは、直ちに「ジュエリー」の傘下の人達に、あたしを襲えと指令を出す。その刺客の第一番手に指名されたのが、こともあろうに女子水泳部の部長だった。

 まあ、事の次第はこんなもんでしょうね。勿論、女子水泳部の部長は、「ジュエリー」の真の目的なんて、全然知らなかったと思います。ターゲットのあたしが、泳ぎながら眠った人間であると知って、慌てて「ジュエリー」の命令に逆らい、部員達と一緒になってあたしを仲間に引き込もうとしたんでしょう。

 やった。話の辻褄が合いました。バンザーイ、バンザーイ!

 だけど、ホントに水が通信したり、死んだりしますかねえ。伊藤さんも女子水泳部の連中も、みんな夢でも見てるんじゃないでしょうか。もしホントだったら地球最大の危機だって、わかってはいるんですが、あたし、やっぱり真剣にはなりきれません。

「どうやって水を殺そうっていうの?」

 試しに聞いてみました。立体映像の伊藤さんが答えます。

「このまま放っておいても水は確実に息絶えます。『ジュエリー総司令』の計算では、水の命の核は、過去、海流に乗って絶えず移動していましたが、現在、どういうわけかこの近所の溜池に入り込んだまま、身動きのとれない状態だそうです。その溜池の汚染は極めて進んでおり、このままだと水は遅くとも三年以内に死んでしまうでしょう。──しかし、それをただ待つだけでは私の偉大さの証明にはなりませんし、そこまで命がもつとも思いません。目下、私と『ジュエリー総司令』は、水を殺す即効性の毒薬を開発しています。誰にも邪魔されなければ二箇月以内に完成の見込みです」

 と、聞かされても、はあ、そうですか、って感じ。真面目に聞こうとは思ってるんですが、どうも話が大きすぎてピンと来ないんですよね。ま、もののついでに、一応、これも聞いてみましょう。

「『ジュエリー総司令』って誰なのよ」
「全生物が滅びた後、神として地上に君臨される御方ですわ」
「それって、生き物じゃないの?」
「コンピューターです。パテントを売却したお金で購入した一世代前のスーパーコンピューターに、私が改造とプログラミングを施したものですわ。私の全意識パターンをインプットしてありますし、もとより計算速度は私を遙かに上回っていますから、さしずめ私を超えた私といったところですわね。──近頃は生徒会の仕事も、『ジュエリー』の事務も、片手間にやってくれてます。やっぱり『ジュエリー総司令』と名乗るからには、そのくらいはやってもらわなければ……」
「名前にかこつけて、体よく雑用を押しつけてるわけね」
「まあ、そういうことですわ」

 伊藤さん、嬉々として喋っている印象を受けます。きっと誰かに自分の壮大なプランを話したくて仕方がなかったんですね。ですが、こっちはそろそろ飽きてきました。さっさと生徒会室を出て、彼女の実物を捜しましょう。

「じゃ、サイナラ」

 あたしがそう言うと、伊藤さん、キョトンとした顔になりました。

「待ってくださいな。今から、あなたをやっつける装置を見せてあげようと……」
「誰がそんなもの、見たいもんですか」

 あたしはスタスタと生徒会室を出ていきました。目指すは理事長室。理事長が伊藤さんの執事なら、理事長室にもきっと何か秘密があるはずです。

 まずは二階。分厚いドアが目の前にあります。ノックしても返事がないので、勝手に開けちゃいました。
 何ですかね、この部屋。窓がありません。明かりは、薄暗い照明だけみたい。だだっ広い部屋のそこかしこに、ごちゃごちゃとわけのわからない機械類が置かれています。とても理事長室といった雰囲気じゃありません。

 あ、伊藤さんが奥にいます。見いつけたっと。

「あら、いらっしゃい」

 伊藤さん、すました顔であたしに声を掛けてきました。

「ここにいるような気がしてたわ」
「私もあなたが来るだろうと思って、鍵を開けておきましたの」
「理事長は?」
「この部屋は元から私のもの。執事は立場上、時々ここに姿を見せるだけです」
「ふうん」
「ねえ、神懸さん。もう少し、こちらへ近づいていらっしゃいな。話がしづらいわ」

 その言葉に、あたしは一瞬、罠があるかも、って思いました。でも「虎穴に入らずんば虎児を得ず」です。いいでしょう。行ってあげます。

 あたしは、用心しながら部屋の奥へ進みました。

「来ましたね」

 突如、伊藤さんの口許に笑みが浮かびます。

「では、さようなら!」
「あっ!」

 ぱっと伊藤さんの姿が消え去りました。──やられたっ! またしても立体映像です。あたしは急いでドアに駆け寄りました。

 ガチャン!

 あたしの手がドアのノブに触れる寸前、ドアロックの音が響きました。駄目です。ドアは全然開きません。閉じ込められちゃいました。

「ほほほほ。しばらくそこで、おとなしくしていなさい。準備が調い次第、催眠音波を流して、あなたの口から、残るスイレンジャーの素性を白状してもらいますからね」

 どこかから、伊藤さんの勝ち誇った声が聞こえてきます。

 ああ、どうしましょう。スイレンジャーが女子水泳部だってことをバラすくらいは、なんでもないんですが、その後が心配です。あたしを無事に帰してくれるとも思えません。

 困りましたね。この部屋、壁もドアも頑丈にできています。この学校で一番力のありそうな甲鳥久美さんを降霊したとしても脱出は難しいみたい。ま、とにかく、やれるだけのことはやらねば。

 ドガン!

 突如、轟音があたしの耳を叩き、突風があたしの身体を吹き飛ばしました。──何? 何があったの?

 あ、ドアが外から破られてる!

「神懸さん、大丈夫!」
「生きてる?」

 そんな声とともに現れたのは、ハイレグビキニにスネ毛ぼうぼうの連中!

 女子水泳部でした。

 みんな、包帯やら絆創膏に包まれて、痛々しい姿で立っています。いかにも病院を抜け出してきた、といった風情ですね。──それにしても、どうやってこの頑丈なドアを破ったのでしょう。

「女子水泳部の皆さん、何をするのです?」

 伊藤さんの尖った声が部屋にこだまします。すると、女子水泳部の部長が怒鳴り返しました。

「話は生徒会室の外で全て聞かせてもらったわ。エリ伊藤! 水を殺そうとする者は、このあたし達が許さない!」
「えっ! もしや、あなた方が……」
「そう! スイレンジャーよ」

 女子水泳部の部長が、胸をどんと叩きます。

「なんてこと! 水を護る戦士のイメージがグチャングチャンに狂ってしまったわ」

 物凄くがっかりしたような声です。

「──なるほど。人は知性や容貌や品性で判断できないものなのですね。道理で幾らスイレンジャーを捜しても見つからないはずですわ。あなた方は最初から調査の対象外でしたから」
「ふふーん」
「ほめてなんかいませんわ。──それはそうと、どうやってドアを破ることができたのですか? 見たところ、道具らしきものは持っていないようですが」
「スイレンジャーは、五人揃った時、初めてその真価を発揮する。神懸さんを助けたいと願うあたし達の心と、この部屋から出たいと願う神懸さんの心がドアに集中した時、水にもらった力が発動したのよ」

 へえ、そうだったんだ。──おっと、こんなところで伊藤さんの声と相手していても時間の無駄だわ。あたしは女子水泳部の部長に言いました。

「ちょっと三階に付き合って。絶対に何かあるから」
「神懸さん! とうとうあたし達と一緒に戦う気になったのね」
「今だけよ」

 へっへっへ。あたしは、女子水泳部を楯として利用するつもりなんです。脇役にはその程度の役割がお似合いってもの。
 あたし達は連れ立って部屋を出ました。直ちに三階へ向かいます。その途中、女子水泳部の部長に尋ねてみました。

「病院にいたんじゃなかったの? どうしてここに?」
「あなたが心配で心配で……」
「嘘ばっかり。どうせ、伊藤さんに治療費でもせびりに来たんでしょ」
「違うわ。入院中の馬鹿騒ぎで壊した物の弁償を肩代わりしてもらおうと……。──あら」
「まったく、本当の敵にお金をもらってヘイコラしてるなんて、情けないったらありゃしない」
「エリ伊藤があんな奴だなんて知らなかったのよ」
「はいはい」
「ほらほら、着いたわよ」

 階段を上がってすぐ左に大きな鉄製の扉があります。あたし達は扉の前に並びました。

「この扉、開くかなあ」

 ちょっと心配です。伊藤さんも用心してるでしょうし。

「大丈夫。みんなで力を合わせれば、不可能はないわ」

 女子水泳部の部長が自信たっぷりに言い切ります。

「さ、一斉に、『扉よ開け』って念じるのよ!」

 よし、やってみましょう。──扉よ開けっ!

「あ、部長、この扉、鍵が掛かってませんよ」

 黄色のビキニのおっさんが、出しゃばって扉を開け、盛り上がった雰囲気を台無しにしました。なんだか、つまんない。
 それはともかく、あたし達はさっそく部屋の中へ入っていきました。

 またしても、ワンルームぶち抜きの部屋ですね。中央には、ウエディングケーキの如き奇妙な形をした、ヌメッとした光沢の巨大な金属製の物体が、デンと据えられています。 おや、四方の壁に土管大の金属製の円柱がいっぱい埋め込まれていますよ。床にも、ぶっとい金属のパイプがびっしりと敷き詰められています。──いったいこの部屋にあるのは何なんでしょう。

「歓迎しますわ。神懸さん、女子水泳部の皆さん」

 その声とともに、伊藤さんが中央の物体の陰から現れました。

「決着をつける時が来たようね。みんな、いくわよ!──フリースタイルレッド!」
「バタフライブラック!」
「平泳ぎブルー!」
「シンクロナイズドスイミングイエロー!」

 えっ、えっ、みんな、勝手に名乗って、ポーズをとってます。あたしも何かしなきゃいけないのかな。

「…………背泳ピンク」
「我ら、水泳戦隊! スイレンジャー!」

 あたしは、思いつきで名乗りポーズを決めた後、五人合同の決めポーズにも交じりました。我ながら乗りやすい性格ですね。

 その時、突如として空間に出現した不思議な七色の水の粒が、あたしと女子水泳部の連中を包み込みました。そしてあたし達全員に、戦隊物のヒーローにつきものの強化服が装着されたのです。これっていったい?

「みんな、水からの贈り物、アクアスーツよ! これからはあたしのことを、レッドって呼んでね。みんなもスーツの色で呼び合うのよ」

 赤いスーツを着た女子水泳部の部長──レッドが叫びます。なるほど、よくある設定だわ。

「ほほう。戦士らしくなりましたね」

 伊藤さんは余裕しゃくしゃくです。

「エリ伊藤、覚悟しなさい!」

 レッドが、気持ちよさそうに声を張り上げました。

「ふふふ。恰好つけていられるのも、今のうちだけですよ」

 伊藤さんは、ツンとすましています。不敵な面構え、とでもいうんでしょうか。熱血根性物の少女マンガに出てくる、主人公のライバルみたいな顔ですね。いかにもハーフといった顔立ちと髪の色が、余計にそういった印象を強めています。

「だけど、あなたはもう袋のネズミよ!」
「部屋の鍵を掛けなかったのは、忘れたからではありませんわ」

 レッドの声に、伊藤さんが冷やかに答えました。

「紹介しましょう。『ジュエリー総司令』です。このフロア内のシステム全体がそう。私と同じ心を持つ、現代最高のスーパーコンピューターにして、生物が死滅した世界における唯一絶対の神!」

 へえー。「ジュエリー総司令」って、懐かしアニメによく出てくる、ランプちかちか、音はピコパコパパピコ、テープぐるぐる、ボタンぞろぞろのコンピューターとは、全然違うんですね。──ああ、あたしの認識が古すぎるのか。

「さあ、まずは『ジュエリー総司令』と戦ってくださいな。はっきり言って、ジュエリー総司令は無敵です。みなさん、どこまで持ちこたえられるかしら」

 そう言い終えたかと思うと、唐突に伊藤さんの姿が消えました。なんと、この部屋の伊藤さんも、立体映像だったのです。

「では、今からは私が相手です。私の名は『ジュエリー総司令』!」

 そんな声が、部屋の中に響きます。伊藤さんの声と全く変わりませんが、向こうがああ言ってる以上、「ジュエリー総司令」が話しているのでしょう。そういえば、心なしか、エコーが掛かっているような気もします。

「いきますよ。最初は小手調べです。私の無限の能力の一端を垣間見せてあげましょう。今から「ジュエリー」のナンバーファイブ、中賀絵里の必殺技を再現しますから、受けてみなさい」
「ええっ!」

 あたしはびっくりして、真っ先に扉に飛びつきました。やられたっ。完全に閉まってます。分厚い鉄の扉は、強化服のパワーでも破ることはできません。

「ピンク、何してるのよ!」

 レッドがあたしをなじります。

「そんな弱気でスイレンジャーが勤まると思うの? この未熟者!」
「未熟者、っていっても、慶応大学の学生のことじゃないわよ。あれは義塾者」

 ブラックが茶々を入れてきました。

「ごめん、レッド。中賀さんの必殺技はとてつもなく恐ろしいの。アクアスーツでも防御は不可能。ダメージを受けないためには、逃げるしかないのよ。──でも、退路を絶たれた以上、ダメージ覚悟で攻撃に出る以外、道はないわね」

 あたしは唇を噛み締めながら言いました。──マスクさえなければ、耳を塞いで戦えるのに……。

 レッドが腰の剣を抜きました。

「みんな、攻撃よっ」
「そうはさせませんわ。──動物シリーズ! 鹿をシカト。わしは鷲だ。おんどりゃあ、めんどりゃあ……」

 「ジュエリー総司令」の容赦ない怒濤の攻撃が始まりました。

 中央の機械に切りかかろうとしていた、あたし達の動きがピタリと止まります。激しい頭痛があたしを襲いました。みんなも頭を抱えてうずくまっています。

「鷹を見たか。イギリスのキリギリス。モリアオガエルが青森帰る。ダチョウが脱腸。パンダがコテンパンだ。象の像。マスがいます。カモシカか、もしかして。イカはいかが。アゲハチョウをあげましょう。シロクマの視力は?」

 いけない。このままじゃ、再起不能にさせられちゃいます。

 あたしは気力を振り絞って立ち上がり、剣で中央の機械を襲いました。しかし、しかしっ! あたしが渾身の力を振り絞っても、傷一つつけられません。

 おそるべし、「ジュエリー総司令」!

「ほほほほほ。私を見くびってはいけませんよ。私の表面には、パイプ一本一本に至るまで、全て、エリ伊藤特製の耐熱耐光線耐衝撃シールドが張り巡らされているのです。外見が機械らしくないのはそのためですわ。水爆の直撃にだって耐えられます。私を破壊することなど絶対に不可能ですわ」

 「ジュエリー総司令」の声が、憎たらしく室内にこだましました。ホント、何から何まで伊藤さんそっくりの性格。まったく、いやらしいったらありゃしない。

「あ、神懸さん、今、私の電源コードをコンセントから抜こうと考えているでしょう。キョロキョロしても無駄ですわ。冗談話じゃあるまいし、そんなもの最初からありません」
「冗談話なんだけど……」

 心の内を見透かされてしまったあたしが、悔しまぎれにそう言い返しました。

 もう戦う術はあと一つだけです。それは、威力の定かでない銃。いかにも光線が出そうな感じの派手なスタイルをしていました。けど、光線は効かないそうなので、何か変わった弾が出てくれることを祈るばかりです。

「アクアバスター!」

 水がくれた銃に最後の希望を託して、あたしはトリガーを引きました。

 その次の瞬間、銃口から発射されたものを見て、あたしは愕然とするしかありませんでした。絶望感が急速に心を蝕み、虚脱感が全身を襲います。

 なんとアクアバスターとは、ちょっと勢いが強いだけの、単なる水鉄砲だったんです。こんなので、あの巨大なスーパーコンピューターを破壊できたら苦労はしません!

 ──ああ、もう駄目です。オヤジギャグのシャワーの中で狂い死にするしかないんだわ。

 と、思ったら、ジュエリー総司令の慌てた声が聞こえてきました。

「し、しまった。──私は、水爆の直撃にも耐えることができるけど、防水加工はされてなかったんだわ!」

 あたし達スイレンジャーは、その時、五人が五人ともずっこけました。

 内部に水の侵入した「ジュエリー総司令」に漏電が発生し、あちこちでバチバチとスパークが生じています。

 数秒後、遂に「ジュエリー総司令」は機能を停止しました。やったね。バンザーイ。

 戦いの終了を悟ったのか、アクアスーツが水の粒と化し、消えていきます。

 ところが。

「よくも、『ジュエリー総司令』を壊してくれましたね」

 そんな声とともに、再び伊藤さんの立体映像が出現しました。伊藤さん、だいぶショックが大きいみたいですね。

「でも、これもみんな『ジュエリー総司令』が、神として不完全だったからかもしれません。『ジュエリー総司令』は負けました。あなた方に負けたのではありません。水の、偉大なる力に負けたのです」

 伊藤さんの声は慨嘆するようでしたが、あれは、水の力が「ジュエリー総司令」に打ち勝ったというよりも、防水加工を怠った伊藤さんが間抜けだったという方が適切でしょう。

「もはや、私の野望は実現不可能なようです。ですが、あなた方ばかりにいい目は見させませんよ」
「どういうこと?」

 あたしが問い質します。

「あなた方にはこの『ジュエリー総司令』と、運命を共にしてもらいます。──さらばです。みなさん!」

 伊藤さんの立体映像が、フウッと消えました。

「まずいわ! 伊藤さんのあの口調じゃ、『ジュエリー総司令』、きっと爆発するわよ! すぐに逃げなきゃ」

「逃げるったって、あたし達はこの部屋に閉じ込められちゃってるのよ。どうやって逃げたらいいの?」

 女子水泳部の部長は、いかにももっともなことを言います。

 仕方がありません。奥の手を使いましょう。

「んじゃあ、どっかそこらで隠れててよ! 一分経ったら、あたしの後をついてきてね」
「よく、意味がわからないんだけど」
「時間がない!早く隠れて!」
「わ、わかった。みんな、そのうすらでかい機械の陰に隠れるわよ」
「オー!」

 女子水泳部の四人がそそくさと身を隠します。それを確認したあたしは、直ちに降霊術のための精神集中に入りました。
「ウェルカムウェルカム・ライライライ、来たれ我が心のしもべよ。──降霊!」


 あたしが意識を取り戻した時、あたしは、本館の校長室にいました。

 あたしの前では、伊藤さんが驚愕に眼を見開き、心底狼狽した表情をあらわにしています。無理もありません。彼女にしてみれば、あたしの身体に降霊されている間の記憶は夢の記憶と同じで、ないに等しいくらいのもの。従って、いきなり自分の前に、あたしが瞬間移動してきたとしか思えないはずです。

「ど、どうやって、ここへ……?」

 伊藤さんが、声を震わせながら、あたしに問い掛けます。あたしは答えました。

「あなたに連れてきてもらったのよ」
「馬鹿な!」
「ちょっとの間だけ、あなたの魂を、あたしの身体に憑依させたの。あたしの身体に乗り移ったあなたの魂は、あたしの記憶の干渉を受けて、自分のことを神懸美子と思い込んでしまった。そして、あなたは神懸美子として、三階の部屋を──別館を脱出しようとしたのよ。エリ伊藤の知識を、無意識のうちに使って」
「そ、そんな!」
「三階の部屋にもし、隠し通路があるとすれば、それを知っているのはあなただけ。そういうわけで、あなたの精神に、あたしの命運を託してみたわけよ。──その結果が今のこの状態ってことね」
「あなた、何者なの?」
「ふふふ。十を何倍するとゼロになるでしょう?」
「零倍……? ──そうか、あなた、霊媒だったのですね」
「さあ、爆破を止めるのよ」

 伊藤さんを睨みつけました。彼女、何やら神妙な顔つきになっています。考え事をしているようにも見えますね。

「ほほほほほ!」

 急に伊藤さんがけたたましく笑い出しました。

「これ、あげますわ」

 小さなリモコンのようなものを、あたしに軽く投げてきます。思わず受け取ると、表面に「爆破装置のコントローラー」と書かれていました。これが「ジュエリー総司令」の爆破スイッチであることは、間違いありません。

「どうして?」

 ニヤリと笑みを浮かべつつ、伊藤さんが答えます。

「スイレンジャーのいない別館を破壊したって、何も面白いことはありませんわ」
「なるほど」
「さあ、次の野望に向かって再出発です」

 伊藤さんの目は遙か遠くを見つめていました。

「次は何を?」

 恐る恐る尋ねてみます。事と次第によっては、病人相手に気が引けますが、戦わなければなりません。

「そう、目くじら立てないで。あなたが私にヒントをくれたのですよ」
「えっ?」
「どうせ私はすぐに死にますからね。あなたに霊の存在を教えてもらった以上、やるべきことは一つ。霊の世界の征服方法を考えることですわ。──では、また」

 いきなり、ボン、と伊藤さんの足元から黒い煙が出て、彼女の身体を包みます。煙が晴れた時には彼女の姿はどこにもありませんでした。まるで忍者ですね。

 あ、今、やっと、隠し通路から、女子水泳部の面々が出てきました。

「ピンク、ここはどこ? 爆破装置はどうなったの? エリ伊藤は?」

 女子水泳部の部長が、矢継ぎ早に尋ねてきます。

「ここは校長室みたいね。爆破装置は間一髪のところで止めたわ。あと〇・〇〇〇〇一秒遅かったら大爆発だったわよ」

 あたしはそう言って、胸を張りました。真っ赤な嘘ですが、その方が断然カッコいいもの。

「やったわね、ピンク! 凄いわ」

 バタフライブラックの人が、嬉しそうにあたしの肩をポンと叩きます。

「そのピンクってのはやめてよ」
「もう! 助かった途端にこうなんだから」
「だけど、伊藤さんは逃がしちゃった。ごめんね」

 謝るあたしに、女子水泳部の部長は、べっとりと口紅を塗った分厚い唇をニイッと広げて、不気味に微笑みました。

「大丈夫。あいつは、一度ケチがついたことは二度とやらない主義なのよ。だからあいつは、いつまでたっても鉄棒の逆上がりができないし、水泳だってカナヅチのままなの」
「ふうん」

 どうやら本当に一件落着みたい。

「もう、水を殺そうと企む奴はいないわ。みんな、神懸さんのおかげよ。さすがはスポーツ万能、頭脳明晰の、無敵のスーパーガールだわ。あなたはスイレンジャーの誇り。そして、水とあたし達の命の恩人よ!」

 こうも手放しでほめられると、幾ら相手が変態とはいえ、悪い気はしません。

「そうかなあ?」
「だからさ、これからも、スイレンジャー、続けてくれるわね?」
「げ!」
「だって、今度は溜池にいる、水の命の核を助けに行かなくちゃなんないのよ」
「ええーっ」

 あーあ、あたしの苦難の道はまだまだ続くようです。
                                      完

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[ 2015/06/29 17:16 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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