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特大家族 第一章 「アレ」 の達人 その3 (小説)

バスの窓から見える景色は徐々に田舎の度合いを深めていく。


 前方と左右のいずこの方角にも山がそびえ、集合住宅やコンビニの姿はもはやどこにもない。その代わり、道路はやたらと広く車線も増え立派な舗装になっている。小矢部川の支流に沿って伸びた道を、バスはひたすら上流へと向かい走り続けた。

「あ、お兄ちゃん達だ! お──い!」

「おーい!」

「お兄ちゃーん!」

 窓から景色を覗いていた小学生達が、歩道を歩く二つの人影にキャッキャとはしゃぎながら手を振った。歩道の人影もそれに応えて立ち止まり、両手を振ってバスを見送る。

「かなめちゃん達け?」












投稿者:クロノイチ


千春子の問いに、小学生達は口々に肯定の言葉を発した。

「こんなとこまで来とるって、かなめちゃん、結構頑張っとるがいね。やっぱ世話する人が違うせいなんかな。この分やと、お散歩タイム、だいぶ長引きそう」

「要(かなめ)、このところ随分体力がついてきたみたい。いい傾向だわ」

「まーたまた。ほんとは違うこと考えとんがいろ。──かえちゃん、当てが外れた?」

「蒸し返さないでよ、もう」

 楓が口を尖らせながら、千春子の頭を叩くふりをする。千春子も頭を護る真似をしてクスリと笑った。

「ふふ、かえちゃん、今日はお楽しみやね。指と指を絡ませながら……」

「また、怪しげな表現ばっかり」

 からかわれているのをはっきり自覚したせいで、逆に楓は落ち着いて応対することができた。

「──だけど今日は楽しむよりも成果を出すことを優先するわ。レクリエーション気分を捨てて、真剣勝負で思いっきりぶつかってみる」

「お、『当たって砕けろ』やね」

「やるからには『当たってぶち砕く』よ」

「すっごいやる気やちゃ。なんかピアノの時と大違い」

「ピアノは……」

 楓は言おうとした言葉を飲み込んで一呼吸、間を置いた。赤みを帯びた頬が一瞬で普段の顔色に戻る。ピアノという語に反応して、楓の熱気がすうっと引いていくのを千春子は感じた。

「なんていうかピアノは日課だからね。やらねば、とは思うけど、やりたくてたまらないってもんじゃないから」

 そう言葉を継いで、楓が無意識の小さな溜息を吐く。そして、千春子は自分の言葉の意図が、楓にうまく伝わらなかったことを悟った。そもそも千春子は楓のピアノを、やる気のなさの象徴として持ち出したわけではない。ピアノを弾く楓が醸し出す、普段とは裏腹のクールで落ち着いた雰囲気──それをさっきまでのハイテンションと対比させただけなのである。

「そうなん? でも、みんな、応援しとるよ。宮城家の期待の星やちゃ」

「そりゃ、わかってる。うーん、だけどやっぱり、なんかいまいちノレないのよね」

 首をひねりながら答える楓を見つつ、千春子はこれ以上ピアノのことについて深入りするのはやめることにした。「やる気がない」と指摘されたと思い込んだ楓が、それに対して否定ではなく言い訳をする以上、彼女にピアノに対する情熱がないことは明らかである。それを知って千春子は何か居たたまれない気分になった。

(あーあ、かえちゃんみたいに思い通りにピアノが弾けたら、わたしだったら毎日楽しくてたまらないのにな)

 喉まで出掛かった言葉を押しとどめ、千春子は話題を変えることにした。(ちなみに彼女の内心の声は東京弁である)

「かえちゃんにも色々あるがやねぇ。──ま、そんなことより、今日は頑張られ。今年は日本一目指しとるがいろ」

「当然よ! ──とはいっても去年も目指してたわけだけどね」

「去年のことは、いい勉強になったと思えばいいちゃ」

「けど、あの悔しさは忘れないんだから。今年は必ず雪辱を果たしてみせるわ。『打倒! 高柳覇斗(たかやなぎ・はと)』よっ!」

 まなじりを決して楓が力強く言い放った瞬間、驚きの眼が一斉に彼女に向けられた。

「も、もしかして、楓が去年負けた相手って、ハト君なのぉ?」

 今まで会話に参加していなかった女生徒が素っ頓狂な大声を出す。楓の六つ後ろの席に座る彼女の名は七瀬美晴子(ななせ・みはるこ)。州立越乃(こしの)高校普通科二年である。制服の違いと髪の毛に天然のウエーブが掛かっていることを除いては、千春子と瓜二つだった。それもそのはず。千春子の双子の妹なのである。しかも一卵性だ。

 ただ、全体的な雰囲気は千春子とはかなり違っていた。どこかしら落ち着きがなく、常に身振り手振りを交えて大袈裟に喋る癖があるため、ちょっとアホっぽい感じに見えてしまうのだ。実際、学校の成績も中と下の間ぐらいである。

 楓は一瞬「失敗した」という顔をした後、おもむろに立ち上がり、美晴子の方を向いて右の拳を顔の前で握り締めた。

「そうよ。全国大会とはいえ、あんなマイナーな大会、あたしが誰に負けて、誰が優勝したかなんて、みんなは覚えてなくて当然だけどね、あたしは当事者なんだから、忘れようたって忘れられないわ」

「そのハト君が、ひょんな御縁で今年からウチに居候って……どういうことぉ? ありえなくない? 故郷を遠く離れた異国の地で恋に落ちたら、その相手が生き別れた兄だったってくらいにぶっ飛んだ展開じゃないの! ──ねえ、千春子、知ってたんでしょ。どうして今まで言ってくれなかったのよぉ」

 一旦、喋り始めると美晴子は饒舌だった。呼び掛けられた千春子が申し訳なさそうな表情で後ろを向く。

「ゴメン。かえちゃんに口止めされとったがいよ。まさか勢い余って自分からバラすとは思わんかったちゃ」

「フンだ。いつかわかることだし、そろそろ公表してもいいかなと思っただけよ。言っとくけど、全部『たまたま』だから、たまたま。『運命の人』かもなんて冗談でも言わないでよ。怒るからね」

「なるほど、そんなふうに茶化されるのが嫌で隠してたんだぁ」

「普通、嫌でしょ。実際、運命なんて感じてないし。──まあ、あたしにとって渡りに舟の『たまたま』だったってことは認めるけどね。やっぱり、いい練習相手がいないとスキルアップは望めないから」

「もったいないわぁ。せっかく神様のお導きをいただきながら、なんで『いい練習相手』で止まっちゃうのよ。天から超巨大なダイヤモンドが降ってきたのに、それを漬け物石にして、『ちょうど必要だったの、ラッキー』って言ってるようなものじゃない。──ああ、楓の立場に私がいたなら……」

「ああ、もう……はいはい」

 楓は投げやりな態度で話を打ち切り、そのまま着席した。

「──まったく、あたしの立場だったらどうだっていうのよ」

「アレを通じてハトちゃんと親密になって、段々といいムードになるがを夢見とるんじゃないがかな。みぃちゃん、ハトちゃんの大ファンやからね」

 二人とも今度は後ろの連中に聞かれないよう、若干、声を抑え気味にした。バスのエンジン音やロードノイズが大きいため、ひそひそ話を強いられるほどではない。

「あいつと仲良くしたいなら、普通に面と向かってそう言えばいいじゃないの。運命の後ろ盾なんて無用だわ。別に、気難しいわけでも近寄りがたい雰囲気があるわけでもないし、楽勝よ」

「それが、みぃちゃんちゃ、いっつもハトちゃんの前じゃモジモジしとるだけながいちゃ。ちゃんと話すきっかけというか必然性みたいなもんが欲しいんじゃないがかね」、

「弱っ。心、メチャ弱っ。家族の前でなら、ウザいくらいによく喋るのに」

「かえちゃんが強過ぎるんやよ。かえちゃんの心臓、特別製やから。ほら、ハトちゃんの歓迎会の時、ジュース注ぎに行って、顔見た途端いきなり喧嘩腰で絡み始めたやろ。で、一方的にまくし立てた挙句、十秒で切り上げて戻っていったがいね。──覚えとる?」

「ああ、そんなこともあったわね。それで千春に、あいつとの経緯を知られちゃったんだっけ」

「なんか衝動的な行動やったんかもしれんけど、それにしたってあの場で主賓に向かってあんなふうに言えるハートは、かえちゃんしか持ち合わせとらんよ。しかも、言いたいこと言い終えたら、ぱっと気持ちを切り換えて冷静になれるんやから凄いちゃ」

「はいはい。どうせあたしは衝動的ですよ。衝動的に動いて、衝動的に怒鳴りまくって、はっと我に返って恥ずかしくなって慌てて席に戻りましたよ。悪かったわね」

 ちょうどこの時、バスが二台の大型トラックと連続してすれ違い、その騒音のため二人はお互いの話を断片的にしか聞き取れていなかった。同じ事実に対する認識の違いに二人とも気付かないまま、なんとなく話が続いていく。

「あの時は主賓そっちのけでどんちゃん騒ぎやっとったし、家族の誰もこっちの方は気に留めとらなんだみたいやけど、わたしはちょうどかえちゃんの隣にいたかんね。あっけに取られてジュース注ぎ忘れたわぁ」

「おい、楓。──美晴子の奴、結構ショック受けてるぞ。急に何やら自分の世界に閉じこもって、ブツブツ言い始めた」

 いつの間にか速彦がやって来ていた。バスの揺れを華麗なステップで相殺し音もなく移動するのは、彼の得意とするところである。

「あたしとあいつが因縁の間柄だったからでしょ。わかってるわよ」

「いや、それもあるんだが、どうも後からじわじわと実感がやって来たみたいでな」

 速彦は歯切れが悪かった。

「実感……て?」

「優しくて礼儀正しくてカッコよくて、スポーツができて賢くて素敵な人、と思い込んでた高柳覇斗が、よりによって楓なんかの同類だったとは、ってこと」

「『楓なんか』って何よ。失礼ね」

「すまん。脚色した。要するに、楓が過度にアレにのめり込んで、誰彼構わず昼夜を問わず、みんなを引きずり回してきたために、アレのイメージ自体、我が家ではどん底なわけだ。その名を口にするのも忌まわしく『アレ』としか呼ばれないほどに。高柳が楓とアレをやっている姿は度々目撃されていたが、きっと楓に無理強いされてるんだと、皆、高柳の立場を自分の身に置き換えて同情していた。美晴子も同様だ。──だが、今、高柳がアレの達人だと判明した。それも楓を打ち負かすくらいの怪物クンときたもんだ。高柳のイメージも自然と変わってこざるをえない。もしや、楓を上回るアレの鬼、アレ中毒、アレキチ三平、アレバカ大将なんじゃないか、とな」

「なん言うとるがけ。アレが強いからって、必ずしもかえちゃんみたいな常軌を逸したのめり込み方をしとるとは限らんやろ。何気にハトちゃんちゃ完璧超人やし、片手間にやれることなんかもしれんよ」
「今、あいつをかばいながら、思いっきりあたしをディスったでしょ」

 楓にひと睨みされ、千春子が慌ててかぶりを振る。

「そ、そんなつもりはなかったがいけど。──だって……」


「冗談よ」

 放っておくと言い訳を始めそうな千春子を一言で制して、楓は速彦の方に向き直った。

「ま、あたしがフォローするのもなんだけど、あいつ、アレに関しては、かなり冷めてるわ。誘ってもなかなか乗ってこないし、本気を出させるのにも時間が掛かる。こっちが一生懸命なのに、向こうはしれっとしてるのよ。あたしに仕方なく合わせてるって感じ」

「では、『高柳覇斗アレバカ大将説』は否定されるわけだな」

「うん。そんな元ネタがなんだかわからないような変なものでは断じてないわ。──けど、この際、ちょっとぐらいは美晴の思い込みを砕いておいた方が、あの子のためかもね。あいつも得体の知れないとこ結構あるし、理想化して見てしまうのもどうかと思うのよ」

 楓には美晴子が年上だという意識は全くないようだった。

「楓はどうしたいんだ?」

「要するに、美晴はこのまま放置ということで」

「なるほど。そうしとくか。千春子はそれでいいか?」

「構わんちゃ。どうせみぃちゃん、五分もせんうちに立ち直るから」

「放置しがいがないなぁ」

 速彦は肩をすくめた。

「──ところで、さっきから一つ腑に落ちないことがある。去年の大会当時、高柳はまだ東京に住んでたはずだ。アレにそう熱意を持たない奴が、わざわざ大会のために北陸くんだりにやってくるだろうか? 全国大会と銘打ってあるとはいえ、端から見れば、片田舎のただの町起こしイベントに過ぎないんだぜ。確かに賞金は破格だったが、あの高柳にとってはさしたる金額でもなかろう。動機がわからん」

「あたしも不思議だったからチラッと訊ねたことがあるわ。自分の可能性を試すために色々やってたって言ってた。その一環として賞金イベント荒らしみたいなこともしてたって」

「アレが自分の可能性とどう繋がってくるってんだ?」

 速彦は首を傾げた。

「さあ、知らないわ。そんなに長く話したわけじゃないし。あいつなりの哲学とか行動原理みたいなものがあるんでしょうよ」

「楓にはそういうものがあるのか?」

「あたしにとってアレは純粋に楽しいモノ。夢中になれるコト。それだけよ。高尚な意味なんてありゃしない」

「楓らしいな。安心した」

「馬鹿にしてない?」

「してないよ。楓が楓らしいってのはな、言ってみれば家内安全、平穏無事と同じ意味さ。──ああ、そうだ。今の話を聞いたら、高柳のアレは、もしかして自分探しみたいなものだったのかもしれんと思えてきた。楓はどう思う?」

「そういえばそんな感じかも」

「ま、今後の付き合いもあることだし、一応、本人に取材しておくか」

 悪戯っぽく笑って速彦は去っていった。


続く
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[ 2016/03/15 23:00 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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