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特大家族 第一章 「アレ」 の達人 その5 (小説)

結局、覇斗の部屋には後で集まることになった。


 順番をひっくり返されたみゆきや楓は大いにむくれていたが、都に面と向かって抗議することはしない。


 無駄だとわかっているからである。

 都にとって自分が口にしたことは全て決定事項であり、変更の余地は一切ないのだ。お願いの形をとってはいても、それは命令に限りなく等しいのである。

 と、いうことで、ここは宮城家の二階にある風呂場。ただの風呂ではない。元温泉旅館の大浴場だった。

 今日の男風呂は総檜造の 「飛天の湯」 である。男風呂と女風呂は週ごとに入れ替わるルールとなっており、先週は石造の 「鳳凰の湯」 が男風呂だった。












投稿者:クロノイチ


 源泉掛け流し、加水・加温なしの純粋な炭酸水素塩泉は、源泉温度四十一度とややぬるめであり、ゆったりと浸かることができる。浴室は山の袂の一軒宿としてはごく標準的な広さで、年季は入っているが清掃が行き届いていて清潔だ。

 洗い場は六箇所と少な目。あまり使われることのないマッサージシャワーと打たせ湯に、余計な面積を取られているせいである。湯船は源泉の湧出量の関係から、十人も入れば満員になる程度の大きさでしかない。ただ、宮城家(一族郎党・居候を含む)のためだけの浴場としては充分過ぎるといえる。

 また、各浴場には、狭いながらも露天風呂が付属しており、目前の山々の風景と小川のせせらぎを楽しむことができた。

 なお、浴場の管理とメインテナンスは、離れの別館に居候として住まう、「あかりや荘」の元・総支配人と元・女将の夫婦に任されている。

 さて、そんな大浴場の脱衣場で、覇斗は要が服を脱ぐのをひたすら待ち続けていた。介助も具体的な動作の指示もしない。言うのは、

「さあ、風呂に入るぜ。全部脱げよ」 ── これだけである。

 覇斗が要を風呂に入れるのは、初めてのことではない。その体験と散歩中の確信が、覇斗に「待ちの一手」を思いつかせた。

 要は動作はのろいし、取りかかりも遅い。指示の言葉が頭に染み込むまで時間が掛かり、それからようやく動き出す。だから、誰でも親切心やまどろっこしさが先に立って、つい手伝いたくなってしまう。だが、それは要の依存心と甘えを増大させるだけだ。やれるということがわかっているのであれば、それにどれだけ時間が懸かろうと本人に任せればいいのである。そのことが、いずれきっと要の自立心と自信を養い、動作の習熟とスピードアップに繋がっていくだろう ── そう覇斗は考えていた。

 それから十分。ようやく裸になった要は、やはり子供そのものだった。第二次性徴の気配もないツルツルの肌である。覇斗はさっと脱衣し、浴室のドアを開けた。微かにヒノキの香りがする。

 さっそく洗い場の方に向かうと、先客がいた。宮城家当主・宮城源太郎(くじょう・げんたろう)である。髪の毛こそ総白髪だが、若い頃はさぞや色男であったであろう面影が至る所に散在し、イカすお爺ちゃんといった風情だ。家電量販店業界売上高第四位・ミヤシロ電機の元会長にして、現在は楽隠居。結構な財産持ちの七十三歳独身(妻は二十年前に他界)である。そして高柳覇斗の亡き祖父の盟友にして、覇斗の未成年後見人でもあった。

「じいじ」

 要が腰掛けに座る源太郎の肩を軽く叩く。その肩の筋肉にはいささかの弛みもない。ちょうど身体と髪を洗い終えた直後だったらしく、二人の姿を確認すると、すぐに持っていたシャワーをホルダーに戻した。

「おお、覇斗君と要か。そういえば今日は第二月曜日だったね。散歩の後のひとっ風呂というところかな」

 源太郎が妙に察しがいいのを不思議に思いながらも、覇斗は「ええ」と応じた。

 源太郎の隣に覇斗が、その隣に要が腰掛ける。

「いやあ、覇斗君が来てくれて助かったよ」

「え?」

「前は、わしが係だったからね。 ── 第二月曜日の出迎えと散歩」

「そうだったんですか?」

「だって、他に人がいないんだもん。これだけの大家族なのにな。まあ、元はといえば自分から引き受けたんだけどね。自分の健康作りにもなるかと思って。だけど初めの頃は要も貧弱でね。帰りは必ずおんぶをせがまれて、これがつらいなんのって。都さんは毎日よくやるわ、って感じ」

「確かにおんぶはきついですね」

「だろ? そのうち要も強くなってきて、全部自分の足で歩くようになったんだけど、今度はわしの方が、歳のせいか色々とキツくなってきちゃってね。歩くたんびに腰やら膝やらに痛みが走るんだ。──でね、都さんに言ったんだよ。『出迎えは待ったなしだから仕方がないにしろ、散歩ぐらい早く帰宅した者に任せてもいいんじゃないか』って。そしたら『迎えに行った人が散歩の担当をしないと要が混乱しますの』って、けんもほろろに返されちゃってねえ」

「あ、それに近いこと、前に僕も言われました」

「そうか。要も日々成長してるんだし、今はもう大丈夫だと思うんだがなあ。ホント、都さんにゃ勝てんよ。──ま、とにかく、君にはとっても感謝してるんだ。わしも無事お役御免になってホッとしたよ。ありがとね」

 それだけ言うと、源太郎は浴室を抜けて露天風呂の方へ行ってしまった。

(なんだかちょっと愚痴っぽかったな)

 覇斗はなんとなく源太郎に親しみを覚えた。ふと気付くと、要がボディタオルを持って覇斗の方を見ている。洗ってほしいらしい。確かに要は自分の身体を洗うのは下手だった。胸と腹に石鹸の泡をちょぼちょぼ付けるだけで満足してしまう。覇斗はまず要に好きなように洗わせ、次に腋の下や首筋などの洗いにくい部位を声がけによって洗わせる作戦をとった。最後は覇斗が自ら洗ってやる。どうしても自分で洗えない箇所があるのは、現時点では致し方ない。

「目を瞑れ。耳を押さえてろ。いいか、しっかりとだぞ」

 要の頭の上からシャワーを浴びせる。要は言われた通りにし、身じろぎもしない。母親の日々の努力の賜物だろうか。時々要は、世話をする者の気持ちがわかっているかのように振る舞う。なんでもある程度自分でできることも大切だが、他人の世話をスムーズに受け入れることができるということもまた大切なことだ。── いい育ち方をしているな、と覇斗は思った。

 要は風呂にのんびり浸かるのが好きである。風呂用の遊び道具も脱衣場にあるのだが、それを持ってきても見向きもしない。無色透明の水面から頭だけ出して、ただ目を閉じている。覇斗が自分の身体を洗い終え、湯船で手足を伸ばしていると、露天風呂の方から源太郎が戻ってきた。世間話や家族の話でしばらく盛り上がる。そのうちに勉強の話題になった。

「──ところで、覇斗君。学校の方はどうだい? 君の実力からいって、随分と物足りん授業なんじゃないか。あの高校は、君も知っての通り、なんというか、ああいったとこだからね」

 源太郎は、檜風呂の縁に座って足湯をしながら、申し訳なさそうに言った。覇斗は、南波市内にある私立光城(こうじょう)高校の超特進コースに在籍している。しかし、「超特進」とは名ばかりで、いわゆるFラン大学以外の大学合格者を出したことはかつて一度としてない。

「確かに授業はアンナもんですが、面白い友達もできましたし、あそこで良かったと思いますよ。足りない部分は自力でなんとかします」

「すまなんだね。君によかれと思ってここでの暮らしを勧めておきながら、州立高校の願書提出の締め切り──あれを完璧に失念しちゃって。まったく、君のおじいさんに顔向けができんよ。前々から君の今後の生活の一切を託されてたっていうのにな」

 八十歳を過ぎてもかくしゃくとしていた覇斗の祖父は、ある雪の夜、何の前触れもなく突然倒れ、そのまま息を引き取った。覇斗が東京の有名進学校に余裕で合格し、入学手続きを済ませた次の日のことである。覇斗が光城高校に入ったのは、宮城家から普通に通える範囲にあって、入試の二次募集をしているところがそこしかなかったからだ。東京で通うはずだった高校と比べると、同じ私立でありながらレベルが 「富士山」 と 「おじさん」 ぐらい違う。源太郎は、覇斗が実力に見合った進学校を受験できなかったことに対して道義的責任を感じているのである。

 とはいえ覇斗は、責任を全て源太郎に押しつけるのは間違いだと考えていた。

 唯一の肉親である祖父の死と葬儀、降って湧いた北陸への転居話などによって、当時、覇斗が混乱をきたしていたことは否めない。そもそも転居を持ち掛けられた時、彼が自分でちょっと調べて必要な手続きをしておくだけで、入試には充分に間に合ったのだ。間違いなくその時の彼は、高校のことなど何一つ考えていなかったのである。

「気にしないでください。あの時は特別ゴタゴタしていましたから。祖父の葬儀を取り仕切っていただいただけで充分です」

「いやあ、遺言で後事を任された身としては、まことに不甲斐なく面目ない限りだよ。もし塾とか予備校とかに通いたかったら言っておくれ。費用は、わしが管理している君の相続財産から幾らでも出せるから。わしの金じゃないから遠慮は要らんよ」

「じゃあ、今度、全国模試を受けてみて、その結果次第で考えます。自分のお金だと思うと、もったいなくてダバダバ使えません」

 覇斗のあっけらかんとした返事に源太郎は救われたような表情を浮かべた。軽く会釈して、それじゃ、と言い残して浴室を出ていく。覇斗は一瞬露天風呂に行こうかと思い、すぐに思い直した。

(そういや、待ち人がいたんだった)

 真横で目を閉じて気持ち良さげにしている要に、慌てて「上がるぞ」と叫ぶ。


続く

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[ 2016/03/19 23:00 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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