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特大家族 第一章 「アレ」 の達人 その9 (小説)

三人の話はたびたび横道に逸れた末に軌道修正を果たし、今は元の話題に戻っている。


「── で、なんでまた高柳は、こんな田舎のアレの大会に出ようと思ったんだ? 賞金二十万円はなかなか魅力的な金額だが、どうせ金のためじゃないんだろう? 高い旅費をかけてまで出なきゃならん理由があったのか?」

 速彦は自分の疑問を素直にぶつけた。松之進はチキンソテーをほおばっている。

「ルールに夢を感じたからですよ」

「夢?」












投稿者:クロノイチ


「当時、僕は自分の可能性を試すことにこだわっていました。これまでの自分の在りようを変えたい、自分が進むべき道を探したい──そのために、とにかくなんでもやってみたかったんです。そして僕はアレに出会いました。子供の遊びのアレではありません。『南波式』と銘打った独特なルールの、スポーツとしてのアレです」

「スポーツ? スポーツって……。──おい、所詮アレだぞ?」

 松之進が、イカの刺身を生姜醤油につけながら呆れたように言う。覇斗は声を低め、ゆっくりと言葉を返した。

「確かに通常のアレの場合、相手より親指が長くて、指の力が強くて、反射神経が鋭ければ間違いなく勝てます。フェイントやら駆け引きやらが成り立つのは、元々の自力に大きな差がない場合だけです。身体能力の高さこそが全てで、技や工夫で勝つことができないのであれば、それはスポーツとは呼べません。──しかし!」

 覇斗の両の瞳には珍しく情熱的な光が宿っていた。松之進は熱々の豆腐の味噌汁をゴクンとやってしまい、苦悶の表情でコップの水を飲んだ。

「『肘を試合台から浮かせていけない』『肘が試合台に付いてさえいれば、肘の移動は自由』『十カウントで一本勝ち、七カウントで技あり、技あり五つで一本』──他にもありますが、これらのルールが、南波式のアレをスポーツへと昇華させました。力なき者が力のある者に勝つ夢が生まれたんです。ルールを最大限に利用し、テクニックを磨き、試合の流れに応じて臨機応変に作戦を立てれば、たとえ相手がプロレスラーでも勝てる。それを実証するために僕は大会に出場しました」

 なるほど、と言って速彦が大きく頷く。松之進はご飯に「よごし」を再度乗せてかき込んだ。「よごし」がテーブルにこぼれまくる。

「楓が勝てないわけだ。君は一人だけ違う次元で戦っていたんだな」

「楓さんは強かったですよ。手を握った瞬間にわかりました。腕力や握力はやや僕が優勢、だけど、手首の力や指の力は完全に僕より上だって。その上、親指はしなやかで長い。だから僕は、最初から手を抜かず、本気の技を使ったんです。──ですが、その試合の後、僕を本気にさせた相手は一人もいませんでした」

「じゃあ、高柳は本来の目的を達成できなかったってことか」

 つまり、圧倒的な身体能力の差を己の工夫でひっくり返して勝たなければ、覇斗の夢は叶ったことにならないのだ。──松之進は、刺身のツマを生姜醤油にたっぷりと浸し、真っ黒になったのをうまそうに口に入れた。

「ええ。そういうことです。結局、僕が思い描いていたような強い人は現れませんでした。賞金目当てに出てくる人が絶対いるって踏んでたんですけどね。──まあ、『子供の遊び』に本気になるのは大人げないという意識が働いたんでしょう。あるいは、ちまちまと指を動かす競技を純粋につまらなく思ったか。こっちは大真面目だったんですが」

「そうか。そいつは残念だったな」

「でも、おかげで目が覚めましたよ。はっきりと気付かされました。僕がアレをどんなにスポーツだと思いたくても、周りが全くそう認識していないってことに。そして、その程度のものに過ぎないアレに自分の可能性を見出そうなんて試みが、いかに無謀であったかを悟りました。──そういうわけで、ここに越してくるまで、アレのことは忘れてたんですが……。本当にきれいさっぱり忘れてたんですが……」

 覇斗は思わず苦笑していた。松之進は迷い箸をしている。

「──放っておいてもらえなかったようで……」

 速彦も松之進も一緒に苦笑する。──松之進が箸を一旦箸置きに置いた。

「高柳,確認するぞ。今はもうアレへの情熱はないんだな」

「ええ、一過性の熱病みたいなものです。楓さんが是非と言えば、いつでもお相手しますけどね」

 よし、と速彦は思った。松之進が箸置きの箸を取り損ねて床に落とし、拾おうとしてテーブルの裏に頭をぶつける。

(どうやら聞きたいことはほぼ聞けたな。特に問題はない)

 速彦がチキンソテーをナイフで切りながら、隣の松之進を一瞥する。松之進は、ぴくっと反応して、口に運ぶ途中のミニトマトを味噌汁の中に落としてしまった。ポチャンと汁が跳ねる。

(高柳は楓みたいにアレ一筋ってわけじゃない。自分の可能性を求めてほんの一時期、大真面目に研究していただけだ。その程度なら、アレのチャンピオンという素性がおおっぴらになったところで、変人扱いまではされないだろ。後はこの松之進が勝手にうまくやってくれるだろうしな)

「──ということだ。わかったな、松之進!」

 速彦から急に話を振られた松之進は、目を白黒させて直立不動の姿勢になった。

「あ、ハイ! わかりましたっス!」

 条件反射で返事はしたものの、実際のところ、松之進には何もわかっていない。釈然としない顏で椅子に腰を下ろす。

 速彦としても別段、松之進に特別なことをやらせようという意図があって声を掛けたわけではない。今の話を、少しだけ強く松之進に印象付けたかっただけだ。その後は、成り行きに任せるつもりだった。松之進がシャツに味噌汁の染みがついたのを気にして、台拭きでポンポンと叩く。しかし、台拭きは既に汚れていた。汚れの上塗りである。

 松之進には、自分が聞いた話をわかりやすく要約し、明るく楽天的な雰囲気を加味して人に伝える才能があった。そのせいか、彼が会話の中で誰かを話題にすると、決まってその人物に対する周囲の好感度が上がる。速彦は、今回も自然とそうなることを期待していた。──松之進がシャツの汚れを口で吸い出そうとして、覇斗に阻止される。

(本当に、こいつ発信の噂話、不思議なくらい影響力があるんだよな)

 実は、当の松之進には、楽しく周りの人間と喋っている以外の意識はない。松之進の語彙の少なさ、人間としての単純さや人の良さがうまい具合に働くのだろう、と速彦は推測していた。松之進が味噌汁の中からミニトマトを拾い上げようとして、またしても落としてしまう。ポチャンと汁が跳ねた。


続く

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[ 2016/03/26 23:00 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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