決闘の情景 (ショート・ストーリー)

強い空風の吹く夕暮れだった。


 雑多な草がぼうぼうと生い茂る名もなき草原に、巨大な木製の鳥居がぽつんと立っている。


 社殿は影も形もない。かつて壮大な社殿があったとおぼしき一帯が、僅かにうず高くなっている程度である。

 今や、赤い漆のほとんど剥げ落ちた鳥居だけが、ぽつねんと天を見つめてそそり立っていた。

 そして、その前で対峙する男が二人。なぜか二人とも西部劇のガンマンスタイルで、ホルスターに収められた拳銃に手を掛けていた。












投稿者:クロノイチ


「ち、父の仇、覚悟」

「相変わらず、言うことはそれだけか。剣でも格闘技でもトランプでも一回として俺に勝ったことのないお前に、これなら万が一があるかもと、わざわざ銃を用意してやったんだぞ。それも雰囲気が出るように、衣裳・小道具一式取り揃えてな。これほどまでに温情溢れる俺に対し、面白いことの一つも言えんのか」

「あんたは、いつもそうだ。面白いことのためなら、自分の生命さえ天秤にかける。だが、あんたが『面白い』と感じることは、僕にとってはクソつまらなかったり、不幸なことだったりするんだ」

「ああ、カタいな。堅過ぎてあくびが出る。── いいか、小僧。こうなった以上、お前は今日俺に撃たれて死ぬ。だがせめてもの情けだ。死ぬ前にダジャレの一つも言わせてやろう。そしたら笑ってやる。冥土の土産にな」

「馬鹿な。ありえない」

「── さあ、チャンスをやろう。いつでも先に銃を抜いていいぞ。待ってやる」

「何ぃ……」

「どうせ勝つのは俺だがな。この世は勝った方が正義なのだ。俺は正義。お前の親父は悪。そしてお前も悪として死ぬ。──さあ、どうした。 抜け!」

「人殺しが! 偉そうに ぬけぬけと言いやがって!── はっ!」

「わはははは。ダジャレを言ったな。ワハハハハ!」

 
パン!

 一瞬乾いた音が響いたが、強烈な風の音にかき消されてしまった。

「さすがに笑いながら銃は撃てないよな」

 面白さに殉じた男に舌を巻きながら、「小僧」 と呼ばれた男は父親の墓を目指し、歩き出した。




強い空風の吹く夕暮れだった。

 雑多な草がぼうぼうと生い茂る名もなき草原に、巨大な木製の鳥居がぽつんと立っている。社殿は影も形もない。かつて壮大な社殿があったとおぼしき一帯が、僅かにうず高くなっている程度である。

 今や、赤い漆のほとんど剥げ落ちた鳥居だけが、ぽつねんと天を見つめてそそり立っていた。

 そして、その前で対峙する男が二人。なぜか二人とも西部劇のガンマンスタイルで、ホルスターに収められた拳銃に手を掛けていた。

「日頃の恨み、今こそ晴らしてくれる」

「ほう。腕に覚えのある拳銃でならば、私に勝てると思いましたか。甘いですね。予言しましょう。『あなたはみじめに取り乱しながら死んでいく』 と」

「何を馬鹿げたことを」

「では、言いましょう。あなたの一人娘は、あなたの子ではなく、私の子です」

「な、何いっ!」

「当然、あなたの奥さんは私の愛人です」

「な、なんと!」

「あなたが死ねば、あの二人は私と幸せに暮らせるでしょう。── さあ、みじめに取り乱すのです」

「ふふ、ふははははは」

「何がおかしいのです?」

「お前に言われるまでもなく、そんなこととっくに気付いておったわ」

「ま、まさか」

「だから、俺は別の家に愛人を囲い、子どもも三人作ったのだ。残念だったな。今さら、取り乱すことなど何もない」

「ふっ、ふふふふふふふ」

「な、何を笑う?」

「墓穴を掘りましたね。私がさっき言ったこと、全部嘘です。あなたの奥さんを愛人にしてなどいませんし、あなたの娘はあなたの子です。── さあ、みなさん出てきてください」

「あ、お前たちは!」

「あんた、よくも浮気して子どもまで作ってたわね。許さないわよ」

「父ちゃん、信じてたのに!」

「わー、待て待て話せばわかる、話せば」

 ザシュッ! ドスッ!

 血しぶきが舞った。一人の男がナイフでめった斬りにされ倒れ伏す。

 自らの手を汚さずに勝利を掴んだ男は首をひねりながら、こう呟いた。


みじめ に取り乱してもらう算段でしたが、ちと 地味め でしたね」




強い空風の吹く夕暮れだった。

 雑多な草がぼうぼうと生い茂る名もなき草原に、巨大な木製の鳥居がぽつんと立っている。社殿は影も形もない。かつて壮大な社殿があったとおぼしき一帯が、僅かにうず高くなっている程度である。

 今や、赤い漆のほとんど剥げ落ちた鳥居だけが、ぽつねんと天を見つめてそそり立っていた。

 そして、その前で対峙する男が二人。なぜか二人とも西部劇のガンマンスタイルで、ホルスターに収められた拳銃に手を掛けていた。


「ち、父の仇、覚悟」

「相変わらず、言うことはそれだけか。お前は堅物過ぎる。運動音痴のお前が、こうやって銃を持ち出してみたところで、俺に勝てないのはわかってるだろうが」

「自分で決めたことですから。勝てぬとわかっていても、挑まずにはいられないのです」

「じゃあ、仕方ないな。ならば冥土の土産にいいものをやろう」」

「も、もしかして……」

「お、なまじ俺のダジャレ好きを知っているだけに、思わず 『メイドの土産』 を想像したな。顏が一瞬にやけたぞ。でも残念。顏の横を触ってみろ」

「おっ、このヒモは何だ?」

「さっきお前が寝てる間に、こっそり付けといたんだ。それからついでといっては何だが、お前の弁当に毒盛っておいたから」

「な、な? ──。冥土の土産として 『毛糸もみ上げ』 てのは」

「苦し過ぎる! ── ぐふっ!」

 やがて、生き残った男は、死んだ男に内心でこう詫びたのである。

「すまん。あれ、毛糸じゃなくて麻紐だったわ」




*上のネタの時代設定は 「遠い未来」 です。

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[ 2016/09/20 23:00 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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