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幻三郎旅日記 第一話 「風の中の剣鬼」 その1 (小説)

遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。


 何か書かねばと思いつつも冴えたギャグが思いつかずにここまで来てしまいました。

 
 そこで苦し紛れに僕が大学時代に書いた剣豪小説を引っ張り出してみました。ギャグもダジャレも一切なし。出てくるのはむさ苦しい男のみ。

 さらに仏教哲学にハマっていた頃の話なので、理屈っぽくて辛気臭いことこの上ありません。しかも恐ろしく殺伐としていますし。

 おもしろおかしい話を読みたい方は、パスされることをおすすめします。

 いやあ、随分昔に書いた稚拙な話なもんで、真面目に読まれるとこっちも恥ずかしいです。




 強い空風の吹く夕暮れだった。雑多な草がぼうぼうと生い茂る名もなき草原に、巨大な木製の鳥居がぽつんと立っている。社殿は影も形もない。かつて壮大な社殿があったとおぼしき一帯が、僅かにうず高くなっている程度である。今や、赤い漆のほとんど剥げ落ちた鳥居だけが、ぽつねんと天を見つめてそそり立っていた。


「こんなものか……」

 
 弥陀ヶ原幻三郎(みだがはら・げんざぶろう)は深編笠を目深に被り直すと、吐き捨てるように呟いた。鳥居に向かい、俯き加減でゆっくりと歩き出す。











投稿者:クロノイチ


 行く手には四、五十人もの血だらけの死骸。切断された手足や首が至る所に散乱していた。彼はそれを一顧だにしない。猛烈な逆風の中を怯む様子もなく、ただ真っ直ぐに突き進む。

 その姿は一言で言えば異形。鉄錆の色をした粗末な小袖と袴に身を包み、深編笠の下からボサボサの長髪を覗かせる。そして、右肩の後ろに大きな瘤らしきものを負っていた。そのせいか、一見、背筋が湾曲しているように見える。


「片づいたようですな」

 突如、鳥居の柱の陰から一人の男が姿を現した。細面で妙に優しい顔をした長身の侍である。その男と幻三郎との距離はおよそ七間。幻三郎は歩みを止めた。

「貴公があの手紙の主だな」

「ええ。霧島十蔵(きりしま・じゅうぞう)と申します」

 長身の侍が落ち着き払った調子で応じる。

「どうです? 罠を切り抜けた感想は?」

「雑魚ばかりだった」

 つまらなそうに言うと、幻三郎は大刀を無造作に抜き放ち、足元の草を薙ぎ払った。葉や茎が強風に舞い、散り散りに飛ばされていく。

「こんなものだ。草と斬るのと変わらぬ。見ろ、俺の身体を」

 その声は霧島十蔵に対抗してか、あくまで穏やかである。だが、深編笠の中でどんな表情をしているかは誰にもわからない。

「これは……! ―― 凄い。一滴の返り血も付いていないとは」

「意識して避けたからな」

「あの凄まじい闘いの中で、そんな余裕が……。さすがは弥陀ヶ原幻三郎殿」

 十蔵が驚嘆の表情を浮かべた。


「たやすいことだ。だが、それでは困るのだ。わざわざ誘いに乗った甲斐がない」

 幻三郎が苛立たしげに言う。

「罠と知ってここへ来たと?」

「無論だ」

「面白い人ですな。噂もまんざら嘘ではないようだ」

「噂?」

「貴方は人を斬れさえすれば満足なのでは? 巷では血に飢えた悪鬼との評判ですが」

「馬鹿なことを言うな」

 ずけずけと物を言う十蔵に対し、幻三郎は不機嫌そうに反論した。

「俺はただ己の剣の腕を磨きたいだけだ。多対一の闘いを望むのはその手段。今の俺に残された唯一の手段だ。人殺しは結果に過ぎぬ」

「ほほう」

 十蔵が興味ありげな表情を見せる。

「その割には随分、むごい殺し方ですな。何もあそこまで切り刻まなくとも」

「……」

 幻三郎は答えずにゆっくり前へ進むと、先刻抜いた刀の切っ先を十蔵に向けた。


「他人を詮索する前に、まず自分のことを話せ。貴公の魂胆は何だ」

「貴方を親の仇・友の仇と狙う連中に、本懐を遂げさせてやろうと思いましてね」

「とぼけるな。他に目的があるだろう」

「少し貴方の実力を試させてもらいました」

「何のために?」

「さあ?」

 十蔵は小首を傾げた。

「拙者にも上の者の考えはわかりませぬ。こちらは単に命令を遂行したまで。―― ただ、今までは小手調べです。貴方を試すのはこれからが本番。我が命を以て」

 そう言うや、大刀を抜き放ち、上段に構える。一挙に眼光が鋭くなり、口許が厳しく引き締まった。ひょろりとした長身の筋肉に力が漲り、全身が凛とした気に包まれる。

「俺には勝てんぞ」

 幻三郎は冷やかな口調で言った。

「それを試すのです」


 十蔵がじりじりと前に出る。しかし、幻三郎は一向に構えない。別段、余裕をひけらかしているようにも見えず、いうなれば、まるでやる気がないといった風情である。

「勝手な言いぐさだな。ちょっとは俺の都合も考えろ」

 相手を歯牙にもかけぬ傲岸さでそう言い放つと、幻三郎は刀を鞘に納めた。瘤のある右肩を小さく回して、筋肉をほぐす。全くの無防備で、隙だらけの状態だ。

「一対一の闘いは嫌だ、ということですか」

 十蔵は気迫を保ったまま、厳しい顔つきで尋ねた。

「そうだ。一太刀で決まる勝負に価値はない」

「私を一太刀で倒せると?」

「誰であってもだ。俺と対等に闘える者はおらぬ。いたら別の生き方をしていた」

「どんな生き方を?」

「普通に。ひたむきに。何の疑いもなく。そこに己を満たしてくれる何かがあると信じて、ただ真っ直ぐに天下一の剣豪を目指したろうさ」


 吹き荒れる風に、殺伐としたものが宿った。無愛想な深編笠が、まさしく幻三郎の顔そのものと化し、周囲を睥睨する。その時、一段と強烈な風が二人の間を吹き抜けた。浮き上がろうとする深編笠を幻三郎が反射的に右手で抑える。

「では、その腕前を……」

 十蔵は幻三郎の不用意な動きに乗じた。

「―― 見せてもらいましょう!」

 叫ぶやいなや、手にした大刀を投げつける。石火の早業だ。剣は煌く一筋の矢と化して幻三郎の胸を襲った。だが、幻三郎は左手を僅かに動かしただけである。

「断る」

 何事もなかったかのように悠然と幻三郎は応じた。一瞬後、空に舞っていた大刀が彼方にザクッと突き立つ。

「こんな物まで投げてくるとは、貴公もまっとうな侍ではないな」

 そう言って、左手の指先でつまんだ四枚の十字手裏剣をバラバラと落として見せる。

「ば、馬鹿な……」

 驚愕に目を見開き、十蔵は茫然と立ち尽くした。無理もない。自らが渾身の力を込めて投げた剣と、それを囮として陰で放った手裏剣のことごとくを、素手で、しかも左手一本で軽くあしらわれたのだから。

「これが実力だと思うな。俺の真の腕前は、誰にも見せられぬ。見せようがない」

 幻三郎は抑揚のない声で言った。


「…………」

 しばし沈黙の時が流れる。

「さあ、どうする。貴公の腕では俺を試せぬぞ」

「い、いや、もう充分」

 十蔵は慌てて右手を前に出し、幻三郎を制止する仕種を見せた。幻三郎の人間離れした早業に度肝を抜かれ、あっさり兜を脱いだらしい。途端に先刻までの優しい顔に戻ると、ぎこちない笑いを浮かべた。どんな表情をすればいいのかわからず取り敢えず笑う、といった調子の笑みである。

「よもや、ここまで桁外れとは……」

「少しは俺の動きが見えたようだな」

「いえ、手が幾本にも見えただけで。―― あっ」

 十蔵ははたと思いついたように、懐に手を入れた。

「これを」

 油紙に包まれた書状らしき物を取り出す。

「何だ?」

 幻三郎は差し出されるままに包みを受け取った。

「主人からの手紙です。本当は、私を斬るのと引き換えに持っていってもらうつもりにしていたのですが……」

「命拾いしたな」

「どうでもいいことですがね」

 十蔵が他人事の如くあっけらかんと言った。

「ほう。この世に未練はないか」

「生きることに何の執着もありませんから」

「本気か?」

 意表を衝かれた感じの声である。幻三郎はもらった包みをそのまま袂へ押し込むと、間合いを取って十蔵と向かい合った。

「ええ。私には半年前より過去の記憶が全くありません。霧島十蔵という名も仮の名。気がついたら今の主人に拾われていたという次第でして。今の自分は生きる意味も目的も失った空っぽの存在です」

「過去に囚われぬ生き方ができて結構ではないか。生きる支えは未来の中から見つけ出せばいい」

 幻三郎の声はどこか空々しく響き、風の唸りの中に埋もれていった。

「その気力が湧かないのですよ。私はどうやら忍びの者だったらしく、掟や命令にがんじがらめに縛られた状況の中に、己の居場所を見出してきたみたいなのです」

「ほう?」

「記憶をなくしても、人間の性格の根本の部分に変化はないはず。私は、己を生きた道具と見做し、上の者の意思を自分の意思としてずっと生きてきたのでしょう。ですから、自分で自分のことを決められない、というか、決める気がしない、というか、自分がどうなろうと構わないというか……」

 十蔵は語尾を濁し、困ったような表情を見せた。

「今の主人が私の忍びの技を見込んで雇ってくれましたが、空虚な心は相変わらずです。自分ではどうしようもありません」

「情けない話だ。それだけの腕がありながら」

「確かにそうです。されど、貴方もどこか私に似ている」

「何?」

 どういうわけか幻三郎は敏感に反応した。たちまち全身に緊張が走り、瘤を負った肩が怒気を孕む。

「俺と貴公のどこが似ているというのだ」

「さあ、何となく。―― いや……」

 十蔵は視線を地に落とし、思考を巡らせるポーズをとった。

「一つお尋ねしていいですか?」

「何だ?」

「貴方は強い。既に人間の域を越えています。世に言う剣豪が束になって向かっても及ばないでしょう。なのに貴方は名誉も地位も求めず、さらなる強さのみを求め続ける。いったいどこまで剣の腕を高めれば気が済むのですか?」

「俺とて、ただ闇雲に強くなろうとしているわけではない」

「しかし、いかなる理由があるにせよ、大勢相手の闘いをこれからも際限なく繰り返していく所存なのでしょう?」

「今の俺にはそれしか道がないのだ」

「そこです」

 十蔵は幻三郎の深編笠を真っ直ぐ見据えた。その眼は深淵を見通すかの如く澄み切っている。

「私の調べた限り、貴方の修行法は数年前から全く変わっていません。三年前、大坂夏の陣に出没した怪物とは貴方のことですね。激しい斬り合いの場に突如として現れ、徳川方豊臣方を問わず、片っ端から切り倒したと聞いていますが」

「ああ」

「貴方は自分が決めた生き方に縛られ、身動きが取れなくなってしまっているのではありませんか? 過去を失った私が、結局は過去から引きずってきた己の性格に束縛され続けているのと似て……」

「黙れ! 貴公に言われる筋合いはない!」

 幻三郎は身を震わせて叫んだ。よほど痛い所を衝かれたらしい。

「自覚はあるようですね」

「だが、生き方は変えぬ。目標ははっきりと見えている」

「今の修行法で?」

 十蔵は顔を横に向け、草原を見渡した。大小の黒い塊が点々と散らばっている。既に陽は落ち、辺りはかなり暗い。もはや黒い塊が、人であったものの残骸だと見分けることは不可能に近かった。

「貴方はこれだけの人の命を奪いました。それで、剣の腕が上がったという実感はどれくらいありますか?」

「あいつらを集めたのは貴公だ」

「彼らを殺したことを咎めるつもりは毛頭ありません。私は純粋に貴方のことが気に懸かるのです。貴方の行く末が」

「何?」

「貴方の言い分はどうあれ、私には貴方がとっくに行き詰まっているように見受けられます。今のままでは、無駄に大勢の命を散らすだけの殺人鬼に過ぎません。ですが、貴方は人の限界を極端に超えた怪物。小さなきっかけがあれば、軽く今の閉塞状況を突き破ってしまうような気もするのです。もし、それができたなら……」

「できるに決まっている」

「さすれば、私は見てみたい。その時の貴方の強さを。強さの向こうに貴方が追い求めたものを。そして、過去の束縛から脱した貴方自身を」

 十蔵の声が段々と熱を帯びてきていた。かなり気分が高揚しているのだろう。生きることに何の執着もないと言った時の、投げやりな感じはどこにもない。


「ふん」

 幻三郎は顔を背け、足元に唾を吐いた。

「―― やりたいことが見つかってよかったな」

 やけに皮肉っぽい口調である。

「あ……?」

 十蔵がきょとんとした表情を浮かべた。唐突に幻三郎がくるりと踵を返す。猛烈な風の中を足早に歩き始めた。

「あ、お待ちを。まだ話が」

「思ったように生きるがいい。俺もそうする」

 振り向きもせず言い捨てて、さっさと歩を進めていく。

「では、また近いうちに……」

 後ろから追い風に乗り、幻三郎の耳元に小さな声が届いた。十蔵が追ってくる気配はない。ただ、語調には何かしら決意めいた雰囲気が漂っていた。

「妙な奴だ……」

 弥陀ヶ原幻三郎はふと足を止めると、忌ま忌ましげに呟いた。




続く
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[ 2017/01/17 23:56 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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