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幻三郎旅日記 第二話 「決闘! 二十四 対 一」 その3 (小説)

衣服に付いた返り血は、すっかり雨に洗い流されてしまっている。


 その雨は徐々に激しさを失い、今は霧雨だ。ずぶ濡れの幻三郎は、ようやく洞窟の入口付近にまでやってきていた。


「誰だ!」

 細かい雨粒の幕の向こう側、行く手に小さな人影がある。

「やはり来たな、弥陀ヶ原幻三郎」
 
 野太い声が雨音の中を突き抜けてきた。背の低い男が入口を塞ぐようにして立ちはだかっている。












投稿者:クロノイチ


「その声は……霞兵衛!」
 
 瞬時に幻三郎がいきり立つ。

「ふふふ、覚えていたか」

「今朝はよくもたばかってくれたな。貴公、一体、何者だ!」

「わしは、衛士よ。言ったはずだが」

「嘘をつけ。一風斎殿は貴公など知らぬそうだ」

 〔誰だ、こいつ〕
 
 兵衛に詰め寄ろうとする幻三郎のそばで、風が問い掛ける。

「お前は黙ってろ」

〔はいよ〕

「頭領が知らぬのも無理はない。わしは随分と昔の衛士だからな。そう、百年ほど前の」

「百年だと。ふざけるな!」

「ふざけてはおらぬ。今朝も別段、お主をたばかったつもりはない。わしも惚けがきたのか、百年前の意識が時々混じることがある。これは勘弁してもらいたいな」
 
 冗談か本気か、乱杭歯を剥き出してニヤリとしつつ、兵衛は言った。

〔こいつの剣気…… 抑えているが、恐ろしく強い〕
 
 風は幻三郎の脇を掠め、兵衛の後ろに回った。

「誰が信じるか!」
 
 幻三郎が殺気を漲らせ、大刀の柄に手を掛ける。

「待て。一対一の闘いはせんと聞いたぞ」

「今日は既に一度やっている。物のついでに、やってもいい」

「百四十歳の枯れ枝の如き爺いを相手にか? やめとけ。お主のことだ。子供を殺したのと同じくらい後ろめたい気分になる」

「どこが枯れ枝だ!」
 
 兵衛は体型こそ若干いびつなものの、顔や身体はギラギラした精気に満ち溢れていた。五十歳を過ぎているようには到底見えない。

「まあ、落ち着け。わしはお主との会話を楽しんでおるのだ。お主も、そのくらいの余裕を持てんか?」

「あいにくと俺は気が短い。── 本当のことを話さぬのなら……」

「そう言われても困る。わしにとっては、頭に浮かぶこと全てが真実。何しろ惚けかかっておるのでな」

「貴公!」
 
 とぼけた台詞を吐き続ける兵衛に、幻三郎は本気の殺意を込めた気合を浴びせた。

「待て待て! わしを斬ると罰が当たるぞ。せっかくいい物を持ってきてやったのに」

「いい物?」

「あそこで、帰りはすんなり通すと言ってしまったゆえ、老骨に鞭打って、わざわざここまで運んできたのだ」

「何を?」

 幻三郎は抜き撃ちの構えを保ったまま、訝しげに言った。

「剣だ。お主の大小の太刀、もう使い物にならぬはず」

「なぜ、そんなことを知っている? 見ていたのか?」

「いいや。単なる夢想中の思いつきよ。最近、惚けのせいか、現実と夢想の境界がはっきりしなくなった。ところが、わしの夢想はそのまま常に現実となるのだ。だから、剣を用意した」

「む……」
 
 幻三郎の右手が、大刀の柄から離れる。兵衛の言葉をどう捉えたものか、迷っているようだった。

「── ところでお主、一つ聞いていいか?」
 
 急に兵衛がひそひそ声になる。

「ん?」

「ここが天ヶ原への道ということは、お主、衛士と闘ったのだな」

「何を今さら……」

「衛士を打ち倒して戻ってきた……か。恐ろしい男だ。経緯は……ま、聞いても仕方がないか」
 
 奇妙なことに、兵衛は、初めて状況を把握した様子である。もっとも、前もって把握していたとしたら、それはそれで却って驚異なのだが。

「貴公、本当に何も知らずに来たのか?」

「さよう。脈絡もなく浮かんでくる意識に衝き動かされ、夢うつつのうちにここまでやってきた。どうして、わしがお主に気を遣ってやらねばならぬのか、それもわからぬ。夢想時の思考や行動には、我ながら合点の行かぬ点が多過ぎるわい。恐らく、酒に酔って別人みたいになる── ああいった感じのことが、我が身に起こっておるのだろうな」

「わかりやすい譬えだ」
 
 腑に落ちぬまでも、何となく兵衛の言葉を受け入れる気になったのだろう。幻三郎の口調からとげとげしさが消えた。あるいは、誇大妄想狂の戯言にいちいち反論しても無駄と諦めたのか。

「そして、今のわしの意識も、夢想中の意識にだいぶ引きずられておる。衛士の敵に回ったお主に対し、何の敵意も湧かぬのもそのせいらしい。── とにかく、どういう心境の変化があったのか、ろくに思い出せぬ」

「思い出したいとは思わんのか?」

「別に。己の中に神秘の部分があるというのは、割といい気分だ。ひょっとして神懸かりになっておるのではないかという期待を抱かせてくれる。出来損ないとはいえ、わしは衛士だ。『岬』 の神の僕ゆえ、神のために働くは大いなる喜び」
 
 兵衛は嬉しそうにニタニタと笑った。

「ふん。おめでたい奴だ」
 
 白けた声で幻三郎が言う。

「ま、微かな望みよ。衛士の敵を神が助けるとは思えぬ。それでも、夢想中のわしが、本来知りえぬはずのことを知り、何か深い考えで行動を起こしていることは明白。命を預けてみるのも、生き方としては面白い」

「── 剣を持ってきたと言ったな」
 
 短い沈黙の後、幻三郎は唐突に話題を変えた。

「うむ。通路の入口に置いてある」

「くれると言うなら遠慮なくもらうぞ」

「ああ。持っていってくれ」
 
 兵衛はそう言いつつ、ほんの少し頭を下げるような仕種を見せた。単に顎を引いただけとも取れるし、そうでないとも取れる。微妙な動作だった。幻三郎が足元にぺッと唾を吐く。

「魂胆が見えぬというのは、不快なものだな」

「魂胆がどうであろうと、お主のやることは変わるまいが」

「……確かに」

「また、弱い者相手の決闘か。衛士と闘った後で、よくそんな低級な闘いを続ける気になれるな」

「親の仇だの助太刀だのと、勝手に徒党を組んで向かってくるのだ。それに俺は他に道を知らぬ。俺の剣の修練は、闘いに始まり闘いに終わる」

「剣の修練だと……。なるほど。それが噂の人斬り魔の大義名分か」
 兵衛は皮肉っぽく言った。

「大義名分とは何だ!」

「違うかな? 他人からは地獄の悪鬼同然に恐れられ貶まれ、自らは罪悪感を捨てられぬまま人斬りを重ねる──それだけの代償を払う以上は、相応に得るものがあるはず。だが、肝心の剣の技量の向上は、そうは望めぬ。それでも別の道を模索せぬのは、何か他の所で満足感を覚えているからではないか?」
 
 ねちっこい笑みを浮かべつつ、兵衛は爛々とした眼で幻三郎の深編笠を見つめた。

「そんなことはない」
 
 強く否定する声の中にたじろいだ雰囲気が微かに滲む。

「いや、自覚していないだけだと思うぞ。お主は言わば剣鬼── 剣の鬼だ。鬼とは孤独なもの。おとなしくしていれば疎まれ、暴れれば恐怖され、世に必要のない存在として扱われる。しかし、鬼退治をしようとする者にとっては、鬼は欠かすことのできない敵。己を必要とする者と巡り合うことで、鬼は初めて孤独から抜け出せる……」

「黙れ! どこまで俺を愚弄する気だ!」
 
 幻三郎の激しい怒りの声を、兵衛は、初めて見せるしんみりとした表情で受け止めた。

「愚弄などせぬ。わしは、百年間、独りきりで生きてきた。孤独の道を生きる者の気持ちはなんとなくわかる。──お主はわしと、二度も立ち止まって話をしてくれた。わしがきっかけを作ったとはいえ、お主にその気がなければ会話は成り立たぬ。つまり、他人と関わるのを嫌うがゆえに、孤高を貫いているわけではないということ。そこから推測できるのは……」

「黙れと言ったろう!」
 
 歯を軋ませ、一層凄みを利かせた声が轟く。気温が低いわけでもないのに、背中から湯気が立ち昇っていた。無言で兵衛が幻三郎を凝視する。探るような視線。沈黙の空間に緊迫した空気が漲る。

「ふう。そうしておくか」
 
 溜め息混じりに兵衛は呟いた。

「── お主と話すのは楽しいが、寿命も縮むわい」

「何歳まで寿命があると思っているのだ」

「…… それもそうだな」
 
 兵衛が苦笑する。ほんの少し空気が和んだ。風が戻ってきて、ふわりと幻三郎を包む。
「では、剣はもらっていく。礼は言わぬぞ」
「ああ。わしは衛士の弔いに向かうとしよう。さらばだ」
 霧雨の中へ消えていく兵衛をチラと見送り、幻三郎は洞窟の入口に向かった。
〔色々と聞かせてもらったよ〕
 一歩、進んだところで、すかさず風が話し掛けてくる。
「やめろ。今は気が重い」
〔あんたの気に触ることは言わん。──あの男、何者だ?〕
「本人の言った通りのこと以外、俺は知らぬ」
〔百年前の衛士……。聞いたことがないな〕
「お前が知らんのなら、嘘なのだろう」
〔俺は元々、衛士の名など一人も知らん〕
 風はあっさりと言った。
「ひどい当主だな」
〔衛士の統括は一風斎の仕事だ。──それはともかく、あの男の剣気、尋常の強さじゃないぞ〕
「ん? それほどでもなかったと思うが」
〔本気を出させてみればわかる。俺は風──気の流れだ。五感の全てが気を捉える感覚に置換されている。その感覚に間違いはない〕
「ならば、俺ではなく奴に取り憑け。剣気が強ければ、取り憑く相手は誰でもいいんだろう」
〔実はもう試してみた。あの男、あんたと違って命の危険とは縁がなさそうだからな。だが、駄目だったよ。俺と実によく似た質の気でな、一緒にいると自我を保つのを忘れて、あの男の気の中に溶け込んでしまいそうになる。やっぱりあんたと連れ立って行くしかないみたいだ〕
 風が幻三郎の周りを緩やかに流れる。チッと舌打ちをして、幻三郎は洞窟に入った。
「これは……!」
 数歩と行かぬうちに、ピタと立ち止まる。岩壁に大小の太刀が立て掛けてあった。鞘も柄も一目で上等と判別できる代物だ。
 が、幻三郎は、それには目もくれず、さらに奥の方に視線を向けていた。首の傾き方でそうとわかる。
〔何だ……?〕
 風は幻三郎の横を抜け、二本の太刀を通り過ぎて、少しだけ奥へ行った。気を発しない無生物を識別するには、自ら触れてみるしかないのだろう。
 そこには恐ろしく長い太刀が横たえられていた。全長五尺。太さは普通だが、長さは通常の二倍という、異様なまでの長刀である。その拵こしらえは豪華絢爛極まりない。──金蒔絵の入った朱塗りの鞘、細密な象嵌ぞうがんの施された金製の金具類。柄頭には古代の宝剣の如く、大きな宝石が嵌め込まれていた。星条の輝きを放つ紅の石、スタールビーが。
〔──『御神薙みかなぎ』だ! なぜ、ここに?〕
 風は剣の素性を知っているらしかった。だが、幻三郎は大きな風音にも一向に関心を示そうとはしない。仁王立ちになり、身体を震わせている。
「どうしてだ……」
 幻三郎が声にならぬ声で、そう繰り返し呟く。段々と興奮が高まってきたらしく、剣気の発散量が急激に増大していった。
〔おい、何をそんなに……。おい!〕
「──どうして三本なのだっ!」
 風の声が引き金となり、幻三郎の思いが叫びとなって噴出した。矢の勢いで洞窟を飛び出していく。灰色の霧雨の幕が視界を遮っている。既に兵衛の影はどこにも見えない。後を追って出てきた風が、幻三郎の正面に回り込み、彼を押し止めんとするかの如く、強烈に吹きつける。
〔考え過ぎだ。あんたの腕が三本だからというわけじゃないだろう。あの男には知る由もないこと。違うか?〕
「では、何ゆえ三本目があんな化け物みたいな剣なのだ!」
〔化け物には化け物が似つかわしいと? ──まさか。何でも皮肉に取っちまうんだな〕
「む……」           
 風の一言で、幻三郎は押し黙った。
〔剣をもらっておいて、勘繰るのもどうかと思うぞ。あの『御神薙』は凄い霊剣だ。きっとあんたの役に立つ〕
「『ミカナギ』というのか」
 幻三郎は少し冷静さを取り戻したようだった。
〔岬護家の護り太刀だ。鞘や鍔なんかは近年の作だが、刀身自体は、世に直剣しか存在しなかった時代に作られたと伝えられている。神の霊気が宿りし神の剣ってことで、うちの神殿に祀ってあったんだが……。──いつの間に盗まれたのかな?〕
 気楽な調子で風は言った。
「おい。そんなのを持っていたら……」
〔持っていなくたって、どのみち、岬護家からは狙われる。同じこった〕
「それはそうだ。されど、盗人扱いされるのは気に入らぬ」
〔自分に恥じるところがなければ、いいじゃないか。あんたは他人を気にし過ぎるんだ〕
「ふむ……」
 幻三郎が自信なさげに俯く。衛士との闘い以来、風の声に対して反発することが、目立って減ってきている。彼は、俯いたままずっと顔を上げなかった。何か思案しているように見える。
〔どうした?〕
 風が不審そうに尋ねた。
「考えていたのだ。霞兵衛が俺に剣をくれた理由を」
〔何?〕
「奴こそが、お前の言う『天敵』ではないのか? 俺を正面に押し立てて、岬護家と戦わせ、自らは高みの見物。それゆえに、奴は俺に肩入れする……」
〔一つの時代に『天敵』が二人ということはありえない〕
 風の見解は否定的だった。
「俺は『天敵』などではない。何度言わせる気だ。それに霞兵衛は、俺が伝説の『天敵』かどうか、一度も確かめようとしなかった。奴自身が『天敵』だからではないか?」
〔けどな、現実に岬護家や衛士に災いをもたらしているのは、あんただぜ。伝説の『天敵』はな、陰に潜んで謀略を巡らす存在じゃない。突如、襲来する破壊者なんだ。言わば地震みたいなものかな〕
「けっ! 人を天災扱いしやがって」
〔岬護家と衛士の村は、たった半日にして戦力の半分を失った。まったくあんたは途轍もない大地震だよ〕
「く……」
 幻三郎は言い返す言葉が見当たらないようだった。
〔だが、あの男も謎だらけだな。『御神薙』の存在を知っているのは、岬護家の者だけだと思ってたんだが……。──どうする? 追い掛けるか?〕
「いや。見つからぬような気がする」
〔なぜだ? あいつに逃げ場はないんだぞ〕
 ゆっくりと首を横に振る幻三郎。フウ、と小さな風音を残し、風は洞窟の中に入っていった。
 静まり返った灰色の空間に幻三郎は一人佇む。やがて、腰帯から大小の太刀を鞘ごと抜き取ると、湿った大地へ無造作に突き立てた。垂直に地面から生えた二本の漆黒の剣は、さながら墓標の如き厳かな雰囲気を醸し出す。
「進むしかあるまい……」
 微かな声が深編笠の中から漏れた。

続く
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[ 2017/04/13 23:56 ] Menu:16 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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