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柔の道 (ショート・ストーリー)

弟は部活で柔道をやっている。地区大会で優勝したそこそこの有望株だ。


  明日はいよいよ県大会である。勿論目標は県チャンピオン。

 
  「後輩にいいとこ見せてやるぜ」 と張り切っている。

 
 ただ弟はちょっと身体が硬い。立位体前屈はマイナス十三センチである。

 「柔よく剛を制す」 というけれど、柔になりきれないやつが、剛を制すことができるだろうか。

 ちょっと不安である。


 まあ、何はともあれ、夕食は鋭気を養うためと称して、外食をすることになった。

 ここぞとばかり弟は注文しまくる。

 ビーフシチュー、トンカツ、ステーキ、ウインナー ……












投稿者:クロノイチ


 「シチューにカツ」 「テキにカツ」 …… よくある縁起かつぎだ。 ウインナーは、多分ウィナー。

「これはどういう意味?」

 あたしは弟の目の前にある巨大な骨つきグリルドチキンを指差した。

「ビクトリー」

 弟はステーキを頬張りながら言った。

 「ビッグ」 な「鶏」 ってことか。 弟よ。英語で「大きい」はビッグだから。ビックじゃないから。

「で、これは?」

 今度は焼き魚を指差す。

「ヤワラのサイキョウ焼」

 ああ、サワラの西京焼だったのか。それにしても牛豚鶏魚詰め物、揃い踏みだなこりゃ。食べ過ぎじゃないの、これ。


 次の日。案の定、弟は腹を壊した。馬鹿である。大会会場には学校から何とか送り届けてもらったものの、それが限界。

 あえなく棄権になったと連絡が入った。

「またこの次がんばりなさい」

 帰って来た弟をそう言って慰める。

「ああ……」

 打ちのめされたような暗い顏で力なく返事する弟。

 だが、あたしにはわかる。これは同情したらダメな顏だ。

「あんた、もうちょっと本気で悔しがったらどうなの」

「あ、バレてたか」

 弟はもうすっかり立ち直っていた。体力的にも精神的にも。いくらなんでも早い。早過ぎる。馬鹿ゆえにそうなのか?

 半日ぐらいは、布団の中で落ち込んでろよ。

「いやあ、失敗した。まさか、この俺が腹を下すなんてな。珍しくいいもんを食べて、腹がびっくりしたんだな」

「ただの食べ過ぎ。反省しなさい」

「モチロン反省したさ。後輩にいいとこ見せてやろうとしたのにできなかったんだからな」

 あんたのモチベーションはそういうことでしか保てないのか。


「後輩にこんなこと言われてショックだったよ。 『今日から先輩のこと、フセンパイ と呼ばせていただきます』 ってさ。

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[ 2019/09/27 23:00 ] Menu:05 Anthony's CAFE 文化部 | TB(0) | CM(0)

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